【連載】「音楽家の愉しみ 第2回 パリの夜」(音遊人2023年夏号 )

 二〇二一二年一月二十日から二十九日までパリに滞在した。短い期間だったけれど、二十六日夜、サロンで開催されたコンサートを含めて実り多い日々だった。
 最後に訪れたのは二〇一八年八月末、ピリオド楽器のためのショパンコンクールの視察でワルシャワに行く前だったから、もう四年以上前。会いたい!という友人たちのリクエストをこなすのが大変だった。
 私は南仏のマルセイユ音楽院に留学している。そのころの仲間たちでパリに住んでいるのは、クラヴサン奏者のエリザベット・ジョワイエと音楽学者のジャンヌ・ルーデ。
 一九七五年の留学当時、ジャンヌは十三歳、エリザベットは十八歳だった。コンサートで共演するクリストフ・ジョヴァニネッテイも含めて、半世紀近くの友情が続いている。
 ジャンヌとエリザベットには二回会った。最初は十八区のエリザベット宅。可愛い一軒家で、地下室にはクラヴサンが置かれ、寝室は二階。一階の食堂で手料理をご馳走になった。白いクロスの円テープルに花柄のお皿が映える。野菜のクスクスが美味しかった。
 六区のジャンヌのお宅では、やはり手料理でランテイーユとソーセージのココット。旦那さまが選んだジュラの白ワインは独特の風味で気に入った。
 若いヴァイオリン奏者の小島燎さんとチェロの諸岡拓見さんとは、今回借りたアパルトマン界隈のモロッコ料理店でクスクス会食。
 クスクスは、骨つきの鶏や仔羊のあばら肉、羊と野菜のくし刺しなどを乗せ、トマト味の野菜スープをかけていただく。小島さんが、トッピングが全部乗っている「クスクス・ロワイヤル」を選んだので、他の二人も同調。モロッコ産の赤ワインがよく合う。
 京大出身で、ごく早い時期から頭角をあらわし、自分と共に仲間のミュージシャンたちを盛りあげている小島さん。同志社出身で、京大オケで弾いていた諸岡さん。パリ留学中にオペラ座管弦楽団のオーディションを受けたら「なぜか受かってしまった」という。
 有名音大を出て有名事務所やレコード会社にかかえられ、上の意向どおりに活動する時代はもうすぎたりだ。
 一月二十六日のサロンでのコンサートは、とても楽しかった。ヴァイオリン奏者のクリストフ・ジョヴァニネッテイとはマルセイユ時代に少し共演していたが、本格的な活動は二〇一四年にデュオ・アルバム『ミンストレル』をリリースしてから。音楽的な相性がぴったりで、打ち合わせしなくてもストンと合ってしまう。
 モーツァルトのソナタ、シューベルトのソナチネ、ドビュッシーの小品とソナタと弾きついで、最後はショーソンの『詩曲』。日本では禁止されているブラボーが飛び交って、やっぱりうれしい。
 近くのイタリアンでの打ち上げは、ジョヴァニネッティ夫妻やパリ在住のミュージシャンの方々で賑わった。お世話になっているサロニエールの斉藤真由美さんと、当日のトーク原稿を添削してくださった音楽評論家のヴィクトリア・トモコ・岡田さん。
 三区でピアノ教室を経営されている藤野ゆかりさんと衛藤裕美さんは、私の本を読んでくださっているとのことで、とてもうれしかった。
 譜めくりをしてくださったパリ音楽院在学中の丸山晟民さんは、長瀬智也似だけど長瀬智也を知らない世代。日仏ハーフのピアニスト、マルセル・田所さんとは大の仲良しで、どこにでも混ざってしまうお茶目な二人組。メルシ・ア・トゥス(皆さん、ありがとう)!

2023年5月30日 の記事一覧>>

より

新メルド日記
執筆・記事TOP

全記事一覧

執筆・記事のタイトル一覧

カテゴリー

執筆・記事 新着5件

アーカイブ

Top