【連載】「音楽家の愉しみ 第12回 八鹿のお寿司屋さん」(音遊人2025年冬号)

 芸術監督をつとめる兵庫県養父(やぶ)市。監督プレゼンツのコンサートや自分が出演するときは、八鹿(ようか)駅から車で五分ほどのホテルに宿泊する。
 近くに「ふなき」という美味しいお寿司屋さんがあり、アーティストの方々にとても喜ばれている。
 二〇二四年四〜五月の音楽祭の折には、東京佼成ウインドオーケストラ有志のサックス・カルテットの面々が豪遊してくださったと報告を受けている。その評判を聞き、やはり音楽祭にご出演くださったピアニストの高橋多佳子さんも、リハーサル後の遅いお食事に使ってくださったとのこと。
 こちらはご一緒できなくて残念だったのだが、二〇二五年六月の音楽祭では、オーケストラ・リベルタを率いる指揮者の坂入健司郎さんや音楽学者の佐藤馨さんをお連れした。
 山陰地方は海の幸が豊富だ。私が子供のころは、母の実家近くのよろず屋さんの店先にはイカや焼きサバ、カレイの干物などが並んでいた。目の前の川では鮎がとれ、村の人が竹串に刺して七輪で焼いたものをどっさり持ってきてくださった。
 今はなかなか食べられなくなった天然鮎が「ふなき」さんの目玉だ。とても大きくて、とても香ばしい。運が良ければ、「渓流の女王」と呼ばれるあまごも出てくる。
 坂入さんと佐藤さんをお連れしたときは、鮎とあまごの塩焼きがペアで提供され、皆さん大喜び。坂入さんのお好みで、地酒「香住鶴」の熱燗をオーダーし、イカが美味しい刺し盛りや、地元の蛇紋岩米(じゃもんがんまい)でつくる握り盛り合わせに舌鼓を打ったあと、シメは名物の穴子押し鮨。こちらも地元の朝倉山椒がよいアクセントになっている。
 九月六日には、ジャズピアニストの島健さんとミュージカル歌手の島田歌穂さんご夫妻が市民交流広場ホールでコンサートを開いてくださることになり、前日夜に「ふなき」さんを予約した。
 ところが、運悪く東海地方の豪雨により、新幹線が品川駅で三時間も止まり、十七時半到着の予定が二十時半にずれこんだ。
 歌手の島田歌穂さんは大事をとってホテルの自室で食事されることになり、私と島健さんと、岐阜からいらしてくださったピアノ講師の三輪徳子さんの三人で「ふなき」さんにお邪魔した。本来なら二十一時閉店なのだが、特別にもう少し遅くまであけてくださるとのこと。
 島健さんとのおつきあいは長い。当時お住まいだった梅ヶ丘の識者の方にご紹介いただき、歌穂さんとのライブや島健さんが制作されたオペラやミュージカルにたびたび足を運んでいる。プレイヤーとして、アレンジャーとして超多忙な島健さんだが、可能なかぎり私のコンサートにもいらしてくださる。
 梅ヶ丘のフレンチで会食したときは、あとで歌穂さんも合流されたこともあり、明け方までおしゃべりし、時計を見たら八時間も経過していた。阿佐ヶ谷の自宅にも遊びにいらしたことがあるのだが、目の前でショパン『夜想曲作品九−二』をジャズ風にアレンジして弾いてくださったときは、あまりの鮮やかさに感激してしまった。
 そんな昔話をしながら、まるまる肥えた鮎やあまご、イカ刺しや穴子鮨を肴にお酒を呑み、翌日のコンサートに備えて二十二時半ごろお開き。私たちが最後かと思ったら、カウンターにはまだ地元のお客さまがいらした。人気店なんだなあ。

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