トランプ米大統領が来日した際、安部晋三首相と共同会見を行ったのが迎賓館赤坂離宮の羽衣の間。青空を模した天井画、豪華シャンデリア。まるでフランスの王宮にいるような錯覚を起こす。
7月4日、この素晴らしい空間で19066年エラール製のグランドピアノを弾く機会があった。リストが愛したエラールは、ショパンが愛したプレイエルと並ぶフランスの名器。1821年に、連続した打鍵が可能になるメカニズムを開発して、現代のピアノのもとを作った。
迎賓館のエラールは、1908(明治41)年に宮内省(現宮内庁)が3515円85銭2厘で購入したもの。明治期のグランドピアンはおよそ750円というか破格の値段だ、白塗りこ唐草模様の装飾が施された美しいビアノで、香淳皇后やまだ子供だった秋篠宮様が演奏していらっしゃる写真もある。
この度修復されたので、お披露目の演奏会を頼まれた。明るく澄んだ音色が特徴だが、低音は良く響くし、中音域は哀愁を帯びた音色でしっとりと歌う。
古いピアノのこととて、あまり激しい曲は向かない。熟考の末、ルイ王朝時代の宮廷作曲家のチェンバロ(ピアノの前身)曲で始めることにした。これなら、エラールの軽やかなタッチにぴったり。トークを挟み、ショパンやドビュッシーを演奏。
ついで、迎賓館が建てられた明治期の作田家のピアノ曲。滝廉太郎の「メヌエット」や信時潔の「きえゆく星影」は、情緒たっぷりに響いた。
52年にフランスの大ピアニスト、コルトーが来日した際、皇居を訪れてピアノを弾いている。その頃エラールは国の所有になり、皇居内に置かれていたので、このピアノを弾いたかもしれない。そんな想像をめぐらせつつ、コルトーが演奏したと伝えられるシューベルトを弾く。
最後は、上皇后美智子さま作詞の「ねむの木の子守歌」。山本正美さん作曲、小原孝さん編曲の優しいメロディーで、古いエラールがことのほか喜んでいるような気がした。
2019年8月12日 このごろ通信の記事一覧>>
*このごろ通信 より
全記事一覧
カテゴリー
- 連載 (143)
- このごろ通信 (9)
- 響きあう芸術パリのサロンの物語 (13)
- 音楽家の愉しみ (7)
- ドビュッシー 最後の1年 (1)
- ピアノで味わうクラシック (10)
- 私の東京物語 (10)
- 青柳いづみこの指先でおしゃべり ぶらあぼ (15)
- 3つのアラベスク—宮城道雄とドビュッシーをめぐる随筆 (3)
- PICK UP 芸術新潮 (12)
- フレンチ・ピアニズムの系譜 NHK文化センター会員誌 (4)
- 音楽という言葉 神戸新聞 (4)
- 随想 神戸新聞夕刊 (7)
- ふるさとで弾くピアノ 神戸新聞松方ホール WAVE (4)
- 酒・ひと話 読売新聞日曜版 (4)
- みずほ情報総研広報誌 NAVIS (4)
- 花々の想い…メルヘンと花 華道 (12)
- 作曲家をめぐる〈愛のかたち〉 (8)
- Monday Woman 読売新聞 (3)
- 本をめぐる随想 月刊 和楽 (8)
- よむサラダ 読売新聞 (5)
- ショパン・コンクール (10)
- ショパン国際ピリオド楽器コンクール (1)
- ドビュッシーとフランス音楽 (42)
- 安川加壽子関連 (4)
- ピアノ教育関連 (12)
- 青柳瑞穂と阿佐ヶ谷会 (5)
- 書評・論評・CD評 (46)
- インタビュー(聞き手) (5)
- その他 (72)
- 青柳いづみこへのインタビュー・記事・対談 (37)
サイト内検索
執筆・記事 新着5件
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第6回 おうちごはん」(音遊人2024年夏号 )
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第7回 ベルリンの夜」(音遊人2024年秋号 )
- 創る・造る・作る「美しい時間」(月報KAJIMA 2024年5月号)
- いま、知っておくべき“新常識” 近年の研究に基づくショパンノ演奏の傾向(ムジカノーヴァ2024年5月号)
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第5回 城崎の夜」(音遊人2024年春号 )