【連載】「このごろ通信 十人十色の開拓者たち 」(毎日新聞 2019年8月26日付夕刊)

 今年は梅雨が長かったので、夏が始まったばかりだと思っていたらもう秋が目の前。急いで仕事をしてしまわなければ。
 暑いのが好きで、窓の外で太陽がかっと燃えていると、やる気が出る。例年は秋に本やCDが出るので、レコード会社のミキシングルームにゲラを持ち込み、編集の合間に赤入れをする。
 今年収録した、CDのテーマは、来年1月に誕生100周年を迎えるフランス6人組。発売も来年になるので、この夏は本の校正だけで良いから楽だ。
 本のタイトルは「音楽で、生きていく」。テーマはキャリア・デザインで、若手音楽家10人にインタビューさせていただいた。取材のきっかけは、あるクラシック担当の新聞記者に聞いた話だった。今、若い演奏家がすごく疲れている、とその記者は言う。ひとたび世に出てしまうと、自分の一存ではなく、音楽事務所やレコード会社の方針に従わなければならない。クラシック界も先行き不透明で、今のうちすさに稼いでおかなければと荒んだ気持ちになるのだという。
 私自身は幸か不幸か商業主義に乗るようなビッグネームではなかったので、自家発電ばかりの活動に嫌気がさすときもあったが、似合わないことをしなくてすんだのはよかった。
 そこで、お話を伺おうと思ったのは、ビッグネームでもセルフマネジメントを心がける、自分で自分の活動形態を選びとろうとしているアーティスト。道なき道を行くのは大変だけれど、やりがいもある。
 10人の内訳は作曲家と指揮者が1人ずつ、フルートとバイオリン奏者、ソプラノ歌手、カウンターテナー歌手、打楽器奏者、ピアニスト、フォルテピアノ奏者、三絃奏者。全くの偶然だが、インタビュー当時29歳か34歳の方が大半を占めていた。
 29歳は自らデザインしたキャリアのスタートに立ったところで、希望に満ちている。34歳はすでに社会的に地位を得ているが、まだ守りに入っていない。
 十人十色のキラキラ輝く言葉が、あとにつづく若者たちにも勇気を届けますように。

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