【連載】「音楽家の愉しみ 第6回 おうちごはん」(音遊人2024年夏号 )

 料理は小学校の頃から作っていた。母は、兵庫県の実家で一人暮らしをする祖母の面倒を見るため、ひと月ほど家を空けることがあった。
 その間は、大学で教員をしていた父の夕食を作る。研究室の助手さんがレシピ集をプレゼントしてくださったが、果たしてちゃんと作れていたのか心配だ。
 学校が休みになると、今度は私が田舎の家に行き、祖母の夕食をつくる。近くのよろず屋さんには肉がなく、カレーは牛肉の缶詰で作った。甘い味付けがカレーに合ってとても美味しかったのを覚えている。
 大学時代は、ピアノを練習する音がうるさいと近所から苦情が出たので、家を出てピアノつきのアパートで自炊していた。地方から上京している同級生たちも一緒なので、ときどきおかずの交換をする。それぞれの郷土料理は新鮮だった。
 大学院を修了してフランスに留学したときも、アパルトマンの大きな台所でせっせと料理作りに精を出した。日本と違って塊の肉を売っているのが嬉しい。ジゴ・ダニョー(仔羊のもも肉のロースト)、ブフ・ブルギニョン(牛肉のワイン煮込み)、豚のロース肉をソテーしてリンゴのソースをかけるノルマンディー風。大家さんから、この子はピアノを弾きに来たのか、料理を作りに来たのか? と飽きられたものだ。
 帰国してからも、日常の食事より、少人数の宴会ご飯を作るほうが好きだ。ギリシャ料理のムサカはよく作る。挽き肉(可能なら羊)と玉ねぎのみじん切りを炒めてミートソースを作り、ナスとズッキーニとトマトを薄切りにして炒め、交互に重ねて火にかける。ヨーグルトに卵白を混ぜたソースをかけていただく。
 いただき物の新鮮な卵でスペイン風オムレツを作ることもある。トマト、ナス、ズッキーニ、じゃがいも、にんじん、セロリ、椎茸などを炒めてといた卵に流し入れ、フライパンでゆっくり火を通す。中はとろとろ、外はカリカリに。お皿をかぶせてひっくり返すときは、ドキドキする。
 とんがり帽子のタジン鍋は重宝する。骨つきの鳥、にんじんや大根、ナス、ズッキーニを重ね、一番上にトマトの薄切りを乗せ、スパイスミックスを流し込む。蒸気を出てきたら弱火にし、二十分ほど。
 もう少し簡単に、カレー味のタジンもよく作る。鳥肉とトマトと唐辛子を炒め、白ワインを注ぐ。ナスやズッキーニも炒め、タジン鍋に。生姜とニンニクのみじん切り、スープストック、カレー粉を混ぜて流し入れ、蓋をして湯気が出たら、角切りのかぼちゃを乗せて十五分ほど。ほっこり美味しくできる。
 家族の誕生日にも、もちろん腕をふるう。主人の誕生日には、蛤のスープを作るならわし。牛挽き肉に玉ねぎ、セロリ、にんじんのみじん切りを入れ、卵白でまとめる。沸かしたスープに流し入れてじっくり煮る。スープを漉して蛤を入れ、貝が開いたら出来あがり。
 娘の誕生日には、モロッコ風クスクスをつくることが多い。ナスやズッキーニ、セロリ、にんじんなどをトマトソースで煮込み、ひよこ豆を入れる。トッピングは肉のグリル。骨つき羊肉にタイムをまぶして焼く。挽き肉にクミンやパプリカを混ぜて焼き、モロッコの肉だんご「ケフタ」を作る。
 固めに戻したクスクスの上に乗せて野菜ソースをかける。ソース・アリッサ(唐がらしのペースト)があれば最高!

2024年10月13日 の記事一覧>>

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