【連載】「音楽家の愉しみ 第2回 城崎の夜」(音遊人2024年冬号 )

 2021年から、母方の郷里、兵庫県北部に位置する養父(やぶ)市の芸術監督をつとめている。
 京都から特急で二時間。八鹿( ようか) 駅で下車して車で五分。とても音響の良いキャパ650席の「やぶ市民交流広場ホール」がある。
 2023年12月24日には、指揮者・ピアニストの大井駿さんをゲストに、クリスマスコンサートを企画した。
 大井さんの大叔父さまは八鹿病院で長く副院長をつとめた小児科医。鳥取出身の大井さんも子供のころはよく八鹿に遊びに来ていたという。
 クリスマス・イヴなので、大人も子供も楽しめるプログラム。前半は大井駿さんとの四手連弾で、ラヴェルの名曲『マ・メール・ロア』。ついでビゼー『子供の遊び』。お正月も近いので、「羽根つき」「こま回し」などでは、大井さんと子供時代の遊びをテーマにトーク。「目隠し鬼ごっこ」は「だるまさんころんだ」、「小さな丹那さまと小さな奥さま」はおままごとのこと。「舞踏会」は、日本なら盆踊りかな。懐かしい子供時代が蘇ってくる。
 後半は、チャイコフスキー『くるみ割り人形』。ドイツの古い町を舞台に、クリスマスイヴに贈られたくるみ割り人形をめぐる不思議な物語。「トレパーク」「あし笛の踊り」「こんぺい糖の踊り」「花のワルツ」など名曲も多い。
 宮本良樹さんの編曲・文による絵本版を使い、NHKドラマ『ふたりっ子』のオーロラ輝子役で知られる河合美智子さんの朗読を交えての演奏。ステージの背景には絵本も投影して、とても楽しい舞台になった。
 コンサート後は、お仕事で九州に向かう大井さんをお送りしてから家人と城崎温泉へ。
 ここは立ち寄り湯が有名で、大たに(漢字がみつかりません)川沿いにたくさんのお湯が並んでいる。到着後、旅館前の「地蔵の湯」に行き、ひと浴びしたところで乾杯。お酒は香住鶴「生酛(きもと)からくち」。
 注文したのは、二人で松葉蟹三杯を味わうコース。まずお刺身で。ねっとりと甘い。ついで、焼きガニ。焼き網に乗せ、表面が白くなったところでいただく。蟹といえばお酢だが、何もつけずにこのままお召し上がりください、とのこと。たしかに自然な塩味で香ばしい。とりわけ爪の部分が最高!
 ついで、蟹すき。お皿いっぱいの蟹を野菜たっぷりの鍋に浸し、表面の色が変わったところでいただく。出汁が効いているので、やはりカニ酢はなし。ふっくらとまろやかな味になる。
 シメは雑炊。残ったお汁に蟹味噌を溶き、ご飯を入れて卵をまわし入れ、火を止める。お腹はいっぱいのはずなのに、二杯もおかわりしてしまった。
 翌朝は早起きして残りの立ち寄り湯に。「御所の湯」は、南北朝時代の文永四年(1267年)に後堀河天皇の姉君が入湯された記録があることから名付けられたという。裏山を借景にした露天風呂からは滝を眺めることができる。
 隣の四所神社は城崎温泉の守護神として信仰されてきたとのこと。
 お湯めぐりのあとは、宿に戻って朝食。前の晩に食べきれなかった蟹を茹でていただく。身はしっとりと甘い。二日連続でさまざまな味わいの松葉蟹を堪能し、忘れられないクリスマスになった。

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