【連載】「音楽家の愉しみ 第4回 デュッセルドルフの夜」(音遊人2023年冬号 )

 二〇二三年九月二十四日から一週間パリに滞在し、二回のコンサートに出演した。
 パリではいつもアパートを借りるのだが、このときは突然キャンセルされてしまい、仕方なくホテル住まい。併設されているブラスリーがとても美味しく、堪能した。
 青山学院大学仏文科の先生で、サバティカルで滞在中の阿部崇さんとの会食では、ステック・タルタルを注文。牛肉を粗みじんにし、オリーブ油、マスタードなどで味つけし、玉葱、ニンニク、ケッパー、ピクルスなどの薬味と卵黄を混ぜ、パンにつけていただく。
 パリ在住のピアニスト、大澤悠子さんとはビーフとメルゲスのクスクスをご一緒した。私好みの細かいスムールに野菜たっぷりのソース。羊のメルゲスは三本もついていて、牛すね肉も柔らかくて美味しい。
 九月二十九日は、ヴァイオリン奏
者、クリストフジョヴアニネッティと奥さまのダナとパリ近郊サン=ルー・ラ・フォレのお宅でオール・シューベルトのコンサート。
 個人のお宅といっても、農家を改造した百名ほど入るスペースで、二階もついている。終演後はお庭でパーティ。奥さま手製のキッシュに美味しい赤ワインで話がはずんだ。
 十月一日は、パリ三区のエコール・
ジャン・フアシナでレクチャー・コンサート。エリック・ハイドシエツク夫妻やアンリ・バルダといった伝説のピアニストとともに、パリ管のコンサートマスター、千々岩英一さん、ラムルー管弦楽団に入団が決まったばかりのヴィオラ奏者田中啓太さん、パートナーのピアニスト、石井あゆみさんなど若い世代の音楽家も来てくださり、嬉しかった。
 終演後は、学校を経営されている藤野ゆかりさん、衛藤裕美さんとクスクス料理店で会食。私はタジンを注文。一人用の可愛いとんがり鍋に塩レモン、オリーブ、トマト、じゃがいもがぎっしり。野菜を食べてしまうと骨つきの仔羊肉が現れる仕組みになっている。
 二日は北駅から汽車でデュッセルドルフへ。ピアニストの富田珠里さんがスタジオに招いてくだきり、公開レッスンと二回のコンサート。
 到着した夜はスペイン料理店へ。富田さんのご主人のヴァイオリニスト、景山昌太郎さんと可愛い二人の坊ちゃんも一緒。店内は陽気な笑い声でいっぱい。土地のビールで乾杯し、タパス盛り合わせ。ナスの揚げ物、チョリソ、小魚のフライ、山羊のチーズなどの前菜を楽しみながらおしゃべり。景山さんはバーゲン歌劇場のコンサートマスター。パリ管のコンマスをつとめる千々岩さんにお会いしたばかりだったので、日本のコンマス談義に花が咲いた。最後は魚介類のパエリヤ。鍋底にこびりついたおこげが美味しかった。
 十月三日は、公開レッスンのあと、旧市街へ。デュッセルドルフはハイネが生まれた街で、生家は本屋さんになっている。シューマンが四十歳から四年間住んでいた家もあり、冬のさなかに身投げしたライン河を見ると、なんだかしんみりしてしまう。
 四日はレクチャー・コンサート。新刊『パリの音楽サロン』の内容にもとづき、演奏しながらの講演。熱心なお客さま揃いで、日本から持参した本やCDが跳ぶように売れた。
 アフターはドイツ料理。アイスバインが好きなのだが、そのお店にはなかったので、骨つき豚のグリルを注文。ザワークラウトとじゃがいものピューレの上に乗っている。これが巨大で、食べても食べても減らない。私にしては珍しく半分残し、お土産にしていただいた。デユツセル名物のアルトビールは残さず、しっかり二杯おかわりしたけれど。

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