北村朋幹『夜の肖像』フォンテック 2778円(税別)
青柳いづみこ選+文
内なる幻想
わずか23歳の日本の若者にこんな見事なべートーヴエンが奏でられるとは!
『幻想曲風ソナタ』と名づけられた「ピアノ・ソナタ第13番』は古典の端正な枠組みを尊重しつつ即興的なひらめきを失わず、行間に深い思索のあとをにじませる。
そして、もうひとつの『幻想曲風ソナタ』である『月光』。いわずと知れた有名曲だが、いたずらな感傷に浸ることなく、詠嘆調でもなく、どこまでも真摯に音を紡いでいく。
2つのソナタの間に置かれたシューマン『夜曲』はE・T・A・ホフマンの同名の短編集にヒントを得たものだが、当初『葬列幻想曲』と呼ばれていたらしい。ひとつひとつの意味を噛みしめるように奏される重苦しい和音の連続は、そのイメージにぴったりだ。
ハンガリーの現代作曲家クルターグの作品に始まり、やはりハンガリーの近代作曲家バルトーク『戸外にて』でしめくくるアルバムは、夜のかぐわしさと危うさに満ちている。