「ショパン・フェスティバル2012 in 表参道 イベントレポート」(音楽の友 2012年7月号)取材・文 上田弘子

ショパンを主軸にドビュッシーが魅力的に絡む6日間

ショパン生誕200年の一昨年からスタートした「ショパン・フェスティバルin表参道」(主催:日本ショパン協会)。今年はドビュッシー生誕150年でもあり、ショパンからさまざまな影響を受けたドビュッシーを絡めながら、”ショパン再発見”の6日間。といっても、いわゆる両者の代表的な作品群である「前奏曲」「練習曲」などを単に聴き比べるのではなく、トークやレクチャーが随所にあり、さながら検証、解剖するような掘り下げたプログラミングである。ナヴィゲーターはドビュッシーのオーソリティ、ピアニストで日本ショパン協会理事の青柳いづみこが務め、連日のコンサートは、次世代を担う若手を中心とした「ランチタイムコンサート」と、ショパン、ドビュッシー演奏には定評のあるピアニストで組まれた「イブニングコンサート」。連日連夜、日本を代表するピアニストの登場は贅沢の極み。知的好奇心がくすぐられっ放しの6日間だった。

ショパンといえばマズルカで、彼の代名詞ともいえる。作品の多くは魅力に溢れ、と同時に謎解きは容易ではない。「マズルカを解いていくと、つくづくショパンは天才だったと思いしらされます。マズルカにはいろいろなアプローチの仕方があるので、今後はフェスティヴァルの主テーマに置いても良いかもしれない」という日本ショパン協会会長の小林仁。初日には、マズルカに造詣の深い楠原祥子とトーク。 楠原が貴重な資料を紹介しながらマズルカ談義。マズルカの歴史や演奏スタイルの変遷、また小林がショパン・コンクールに参加した1960年当時の話など、後半の楠原の演奏ともども興味深かった。

2日目からは、いよいよドビュッシーに踏み込んでいく。青柳がコンサートのプレゼンター役となり、5日目(6月1日)には「20世紀に花開いたショパンの遺産」というテーマでレクチャー。ドビュッシーの最初の師はショパン門下と言われており、ドビュッシーはショパンのメソードやピアニズムから、今度は自身の音楽語法を編み出していく。ショパンの弟子の証言や、当時の時代背景など、青柳はさまざまな角度からショパンとドビュッシーを見つめ、実際に手指やペダルの使い方も披露し、「これぞ」という両者のエッセンスを説く。当夜の演奏は、ペダリング巧さと音色の魔術師ともいわれる堀江真理子。前半にショパンの「練習曲」op.25-1&2、後半はドビュッシーの前奏曲集第1集。新緑の美しい表参道に、堀江の音がさらに薫る。

最終日(6月2日)は「ショパンが20世紀にもたらしたもの」というテーマで「前奏曲」が置かれた。ショパンの前奏曲(24の「前奏曲集」op.28)と短絡的に対比され語られることが少なくないドビュッシーの前奏曲(全2集)だが、名手二人の名演から、互いに唯一無二の作曲家であると同時に後年への影響や系譜を実感。前半は谿博子がドビュッシーの前奏曲集第2集、後半はショパン・コンクール入賞者であり国際的ピアニストで日本ショパン協会理事の海老彰子がショパンの「前奏曲集」op.28を演奏。フェスティヴァルの大トリ、海老の圧巻のショパンには鳥肌が立った。魂からの前奏曲は、明日へ繋がる前奏曲とも言える。同協会も50周年を超え、益々の発展に期待したい。

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