ダン・タイ・ソン ピアノ・リサイタル
2014年11月27日
紀尾井ホール
文・青柳いづみこ(ピアニスト)
ダン・タイソンといえばショパンの抒情的な演奏で知られるが、この日はリズムの魅力に酔った一夜だった。シューマン《ダヴィッド同盟舞曲集》、シューベルトに想を得たラヴェル《高雅で感傷的なワルツ》、ウィンナ・ワルツへの憧れを昇華させた〈ラ・ヴァルス〉。背筋をすっとのばし、長くのばした腕からぐくり出されるタッチはあくまでもカンタービレだが、両足はジャズメンのように躍動し、ダンスする。ステップの間から、このピアニスト特有の繊細な揺らぎ、甘やかな抒情が流れだしでくる。
大胆にテンポを変化させる演奏ながら、リズムが戻るべきツボははずさない。あらためて、本当に歌える人は本当に踊れるんだなと思った。変拍子を使ったプロコフィエフ《束の間の幻影》はインスピレーションに満ちた演奏で、さながらおとぎ話の世界に迷い込んだよう。ぎくしゃくしたリズム、いたずらっぽいユーモアで、ショパンのスペシャリストに新たな一面を刻んでみせた。