【新連載】「青柳いづみこの指先でおしゃべり 第1回 ショパンゆかりのサロン」(ぶらあぼ 2014年10月号)

Les doigts bavardent 1

ショパンゆかりのサロン

パリでおすすめのスポットは? ときかれると、9区の市立ロマンティック美術館と答える。

モンマルトルの麓にひっそりとたたずむこの美術館は、ピガール通りを南下してシャプタル通りを曲がったところにある。木立に囲まれた石畳の道をすすむと、美しいバラの庭園と瀟洒な館が見えてくる。

1830年代、ロマン派の画家アリィ・シェフェールのサロンには、ジョルジュ・サンドをはじめショパン、リスト、ダグー伯爵夫人、ドラクロワなど錚々たるメンバーが集ったという。ロマンティック美術館はその邸宅とアトリエを改装したもので、サンドの孫オーロールから寄贈されたゆかりの品々が展示されている。

一階正面の部屋は、サンドのノアンの館でのサロンを復元したものらしい。カブリオレ式といって、優美な曲線でかたちつくられた椅子やテーブル、ルイ15世様式のたんす、ロココ様式の燭台。正面には威厳たっぷりのサンドの肖像画。

なぜかショパンの肖像はないけれど、かわりに「舟歌」や「幻想ポロネーズ」の録音が流れてい為。あまりにステキな演奏なので誰が弾いているのかきいてみたら、フランスの中堅ピアニスト、イヴ・アンリだった。

古い家らしく左側に傾いたらせん階段をのぼると、2階の各部屋には美術品や装飾品が展示されている。幼いころのジョルジュ・サンドの肖像や、サンド自身が描いた水彩画はとても珍しい。1831年、パリに出てきたショパンが「ヨーロッパ最高のプリマドンナ」と絶賛した歌姫、マリーア・マリブランの自画像も初めて見た。その妹でショパンがかわいがったポーリーヌ・ヴィアルドの肖像など、ショパンがらみの絵画も多い。

館内の閲覧もさることながら、私がこの美術館を訪れる本当の目的は、温室を利用したオープン・カフェでお茶を飲むことだ。緑が美しい木立の影にはいくつかのテーブルと椅子が置かれ、美術館を訪れた人々が思い思いに談笑したり、本を読んだりしている。カフェのメニューも魅力的で、オリジナルブレンドの紅茶や手づくりのハーブ・ドリンクと焼き菓子。キッシュやサンドイッチなどの軽食もある。

その日私が頼んだのは、アールグレイの紅茶、焼きサンドとサラダのセット。注文するとライ麦パンにハムをはさみ、ワッフルのように焼いてくれる。紙の皿にサンドイッチを置き、まわりにサラダとポテトチップをあしらい、お好みでヴィネグレットソースをかける。

焼きサンドはパリパリとおいしく、紅茶は香り高く、あたりを流れる時間はどこまでもゆったりと、夢のような時間を過ごせることうけあいである。

ロマンティック美術館(ミコゼ・ド・ラ・ヴィ・ロマンディック)
Musee de la Vie Romantique
16, rue Chaptal – 75009 Paris

– Information –
島崎藤村が聴いたドビュッシー〈1914年・パリ〉
第1夜 10/21(火)19:00 
第2夜 10/31(金)19:00
Hakuju Hall 
東京コンサーツ 03-3226-9755

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