【連載】 随想 「鳩さん、かわいそう」(神戸新聞 2011年2月25日夕刊)

ハト屋大丈夫かなぁ。

伊豆の観光旅館のことではない。エジプト情勢を見聞きするにつけ、カイロの葉と料理専門店のことが心配でならないのだ。

カイロを訪れたのは3年ほど前、大学院生の娘と一緒だった。娘のほうは観光目的だったが、私はアンリ・バルダというフランス人ピアニストの取材も兼ねていた。カイロに生まれ、亡命ポーランド人の先生に手ほどきを受けたバルダは、16歳のとき、スエズ動乱のあおりを受けてフランスに移住し、パリ音楽院に学んだ。

現在はパリに住んでいるが、カイロの外国人居住区には生家が残っている。私がカイロに行くことをしったバルダは、いくつかレストランを教えてくれた。そのひとつが、このハト屋だったのだ。 エジプト料理では、鳩は鶏と同じように食されている。高級食材だが、市場にほど近いこの店でこの店では道路に屋台を出し、リーズナブルなお値段で鳩料理を食べさせてくれる。

グリルも香ばしくておいしいが、お腹に米とハーブを詰めて蒸しあげた「ハマーム・マハシ」の味は最高で、娘とむしゃむしゃたいらげた。

鳩で思い出すのは、娘が小学生の頃、家族でフランスに旅行した帰り路のことだ。キャセイ・パシフィックの乗り継ぎ便が遅れて香港に一泊したところ、ホテルの食事に鳩が出てきた。娘はまだ小さかったから、「鳥だよ」と言ったら喜んで食べていたが、東京行きの飛行機の中で、「実は…」と話したら、「鳩さんかわいそう」と泣きだして困った。

まあ、別に鳩さんが可哀相ではないというわけではないのだが。

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