【連載】 随想「頭のいい羊」(神戸新聞 2011年2月8日夕刊)

チュニジアが政情不安だときいて心配している。というのは、パリの友人がチュニジア音楽院でピアノの先生をしているからだ。

その友人にきいた労働事情はなかなか大変そうだった。まず、チュニジア全土にピアノの調律師が2人しかいない。生徒は、止まらずに弾けたためしがない。そして、音楽院の先生の 給料は現金ではなく、学期末に羊で支払われる・・・。え! メーメー羊さんがお金のかわり? びっくり仰天したが、イスラム社会では羊に公定価格がついているというから、それほど貴重なのだろう。

日本では羊といったらジンギスカンぐらいしか思い浮かばないが、フランスでは羊は牛よりも高級な肉として愛でられている。骨つき仔羊のローストは日本のレストランでも定番メニューだが、私が好きなのは「ジゴ」と呼ばれる股肉の部分だ。塊肉ににんにくを擦り込んでローストする。薄切りにした中がほんのり赤いぐらいがおいしい。 

留学生時代、パリの16区という高級アパルトマンの一室に間借りしていたときのこと、オーナーのマダムが台所で料理している私のところにやってきて、あなたはいつもいい匂いをさせていますね・・・。ちょうど「ジゴ」が焼きあがったところだったので、早速ご馳走した。 

フランスでは羊の脳味噌も食べる。さっと茹でたものを、表面がカリッとするようにバターでソテーする。パセリのみじん切りを飾ってできあがり。

脳味噌では笑い話がひとつ。レストランでこの料理を注文したある客がシェフを呼んでひとこと、「君、こんなに頭のいい羊を殺して悪いと思わんのかね」。
脳味噌がとても大きかったらしい。

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