【記事】「村上春樹がつないだ小澤征爾と天才ジャズ・ピアニスト奇跡の共演 」(週刊文春 2013年5月16日号)

五月六日、京都大学で村上春樹氏(64)の「公開インタビュー」が行われた。

「河合隼雄物語賞・学芸賞」創設に際して開催されたもので、生前の河合氏と村上氏に深い親交があったことから実現。村上氏は五百人の聴衆を前に河合氏との思い出を語った。

そして今秋、村上氏のもう一つの深い親交がきっかけとなったイべントが開催 される。クラシックの音楽祭「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」で、小澤征爾氏(77)の指揮のもと、ジャズピアニストの大西順子さん(46)のトリオとサイトウ・キネン・オーケストラが共演するのだ。

大西さんは米国・バークリー音楽大を卒業後、九三年にデビュー。村上氏は以前から大西ファンを公言しており、何度もコンサートに足を運んでいるという。著書『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』の中では、こう絶賛している。

〈世界的に見ても第一級のミュージシャンで、そのしっかりとしたドライブ感と選曲のセンスの良さにはいつも感心させられる〉

村上氏は大西さんのコンサートに小澤氏を誘い、小澤氏も大西さんの魅力に引かれていった。

だが、大西さんは昨年、現役引退を表明。ラスト・コンサートは十一月、神奈川県の『本厚木Cabin』で行われた。店主の佐藤ふじ子さんが振り返る。

「村上さんが、小澤征爾さんと娘の征良さんを誘って来て下さったんです。小澤さんは終始ご機嫌で、ビールも召し上がっていました。『これ、大西さんにツケといてね』なんて冗談も飛ばしていましたよ(笑)。演奏中は『ブラボー!』なんて声も上げられたりして。村上さんも楽しそうにしていらっしゃいましたね」

最後のステージに駆けつけた写真家の岡村啓嗣氏もこう明かす。

「アンコールの後、小澤さんはスタンディングオペーションで、『やめるな!』『やめちゃだめだ!』と叫んでいました(笑)。打ち上げの席でも小澤さんは『とにかく、これでやめるのはもったいないから、続けなきゃだめだ』と大西さんを一生懸命口説いていました」

この日は、聴衆からのサプライズもあった。

「客席でノートを回して、皆で大西さんへのメッセージを書き、花束と一緒に渡したんです。村上さんは『またいつか、近いうちにきっと聴きたいです』と書いていました」(ファンの一人)

村上氏は、その後の経緯をフェスティバルのホームページ上でこう記している。

〈そのあと小澤さんと二人で話しているとき、ガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』を大西さんとサイトウ・キネン・オーケストラ(小澤 征爾指揮)で聴けたら最高ですね、という話になりました。その時点ではまさかそれが可能になるとは思わなかったのですが(彼女の引退の決意が堅いことはよくわかっていたから)、小澤さんが大西さんを熱く説得し、実現の運びとなりました。本当に夢のような展開です〉

ピアニストの青柳いづみこさんはこう期待する。

「ジャンルを飛び越えた村上さんの提案に感激です。譜面通りに演奏するクラ シックのスタープレイヤーと即興がお約束のジャズトリオが、ガーシュインの 代表作をどう表現するのか。とても楽しみですね」

「奇跡の共演」は九月六日に実現する。

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