ショパンコンクール 能動的だった日本人出場者(西日本新聞 2022年2月26日付朝刊)

 今年10月、ワルシャワで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールは、中国系カナダ人ブルース・リウの優勝で幕を閉じた。日本から本大会に出場した14人のうち、反田恭平が内田光子以来51年ぶりの第2位、小林愛実も第4位に入賞するなど、大きな成果を上げた。ショパンは世界四大コンクールでも最も権威があり、オリンピックより間遠な5年に1度の開催。今回はコロナ感染拡大のためさらに1年延期され、準備期が十分にあったためか、まれにみるハイレベルの戦いとなった。
 その中で互角に渡り合った日本人出場者は、以前と比べてはるかに能動的な姿勢が顕著で、各国の審査員たちもその変化に驚いていた。
 小林愛実は前回のファイナリストだが、今回は予選の全曲目を変え、本選の「ピアノ協奏曲第1番」でもアプローチを全く変え、弱音の魅力を前面に出して聴衆と審査員心をつかんだ。この視野の広さは、留学先のカーティス音楽院で優れた音楽家と交流する中で培われたものだろう。
 反田恭平は本場のショパン演奏を学ぶべく、ワルシャワに留学してパレチニ教授の下で研さんを積んだ。大舞台で音を朗々と響かせるため肉体改造に励み、自らオーケストラを組織して協奏曲の経験を積んだ。本選では、オーケストラとの共演に不慣れな出場も多い中、各楽器の奏者と音楽を通して対話をし、一体感は群を抜いていた。
 反田は自ら楽事務所ち上げ、同世代の優れた音楽家を支援する立場にもある。長い歴史を誇るショパンコンクールでも、エージェントを兼任するピアニストが参加した例はないのではないだろか。彼の独特な発想と在り方は、今後の日本楽壇の指針となるに違いない。
 惜しくも本選進出を逃したが、東大卒のユーチューバー「かてぃん」として世界ファンを持つ角野隼斗は、配信時代を象徴する存在として大きな話題を呼んだ。
 ショパンコンクール自体も動画配信に力を入れ、驚異なアクセス数をたたき出した。全世界の視聴者が審査結果と異なる意見を持つケースも多く、SNSで議論が交わされ、予選敗退でも重要な契約を結んだ例もあると聞く。
 その意味で、コンクール在り方もまた、大きく転換した年だったと言えよう。

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