ショパン・コンクール徒然記(音楽の友 2021年10月号)

印象的な女性コンペティターの長い髪

 第1次予選はパスポートの関係で最終日しか聴けなかったのだが、動画配信でとても気になつたのがアメリカのサラ・チュアン。緩くカールした長い髪が腰のあたりまで伸びている。「練習曲」作品25-16を演奏中は大人しく背中に垂れていたのだが、終わりくらいからそのうち一房が右腕にかかり、つづく《革命》(「練習曲」作品10-12)では手首まで覆い、右手の激しい動きにつれてさらに増え、腕が上がるたびに髪の房も付点で揺れている。それでも見事に弾くのだから驚いてしまう。
 チュアンの動画があまりに印象的だったので、現地に赴いたあともヘアに注目してみた。
 やはり腰まで届く金髪が印象的なロシアのエヴァ・ゲヴォルギヤンは、17歳の若さでファイナリスト。第1次、第2次予選ではポニーテールだったが、第3次と本選はラプンツェルのようにゆるいお下げに結っていた。強靭なテクニックの持ち主で、「ピアノ・ソナタ第2番」など背中を大きくそらしてのエンディングでは、お下げがポーンと跳ねる。
 本選終了後のショパン・トークではお下げを解いてなびかせ、黒の膝丈ワンピースにパンプスで17歳とは思えぬ成熟した魅力を振りまいていた。
 第3次予選まで進出したミシェル・カンドッティも、ふわふわの髪をヘアバンドでまとめているものの、やはり腕の動き.につれて前に垂れてくる。躍動感に満ちた「ワルツ」作品18では、ヘアもいっしょに躍動していた。
 第5位入賞のレオノーラ・アルメリーニは、モナリザのような肩出しドレスの上に流れる栗色の髪が印象的。髪をなびかせながら「バラード第3番」を演奏する姿はさながら水の精のようだった。

ヴィルトゥオーゾ型の“サムライ”男子

 男子の髪にも注目してみた。2015年のコンクールではロン毛ポニーテールで話題を呼んだゲオルギス・オソキンスは、今回は髪を切ってきたが、真ん中分けの髪が顔にかかるので、始終かきあげながら弾いていた。
 「かてぃん」こと角野隼斗は長髪ではないが、七三に分けた前髪の先をカールさせ、まるで若いころのショパンのようだ。演奏も、ショパンの若い時代の作品「マズルカ風ロンド」がめちゃくちゃうまかった。
 元祖くるくる髪はロシアのニコライ・ポジャイノブだが、第3位に入賞したスペインのマルティン・ガルシア・ガルシアはもっとダイナミック。第2、第3次予選では後ろになでつけていたものの、ワルツ、ポロネーズ、マズルカと弾き進むにつれ乱れてくる。本選では盛大にくるくる髪で出てきて、カールをゆらゆらさせながら楽しそうに弾いていた。
 ポーランドのアダム・カウドウンスキは金茶の長髪を後ろで結んで肩甲骨のあまりまで垂らしている。さながら亜麻色の髪の乙女の男子版か。思索的な演奏で《舟歌》などとても好きだったが、第3次予選には進めなかった。
 韓国のチェ・ヒョンロクはさほど長くない髪を首すじのあたりで結んでいる。この人も決してピアノを叩かず「前奏曲」作品45を余韻搦々と弾くのだが、残念ながら第3次予選に進めなかった。
 そんなわけで、男子の長髪派は思索型かと思いきや、第2位に入賞の反田恭平は豪快なヴィルトゥオーゾ型。整髪料で固めた髪を後ろでちょんまげ風に結ぶスタイルから“サムライ”と呼ばれているそうだ。
 21世紀の“サムライ”は、「ピアノ協奏曲第1番」でオーケストラを相手に丁々発止、見事な刀さばきならぬ指さばきを見せていた。

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