サイエンスアカデミーへのいざない「弾いて書くことの惑い」(日本海新聞 2022年10月18日)

 昨今、大谷翔平選手の大活躍のおかげで二刀流が話題になっている。
 私の場合は、本を書いてピアノを弾く二刀流。1980年にデビューしてから東京芸大の博士課程に再入学し、ドビュッシーの研究で博士号を得た。ドビュッシーとその時代をテーマにシリーズ・コンサートを開きながら執筆を続け、現在までに著作は32冊、CDアルバムも21枚。
 そのルーツは、ピアノが好きだった父方の祖父青柳瑞穂にあるのだろうか。翻訳家の祖父は、「阿佐ヶ谷会」という中央線沿線の文士の会に自宅を提供しており、今も私が住む家には井伏鱒二や太宰治も出入りしていた。
 19世紀から20世紀初頭のフランス文学を翻訳していた祖父の本棚には、多くの退廃的な詩人・作家の本が並んでいた。いっぽう、ピアノの恩師安川加壽子先生が奏でるのは優雅でお洒落なフランス音楽。
 自分には関係ないと思っていたのだが、他ならぬドビュッシーがその詩人たちの仲間にいたことを知った時、二つを結びつける仕事ができるのは自分しかいないと思った。
 書くほうは天然で、自然に言葉が浮かんでくるのだが、ピアノはそうはいかない。長い時間をかけてトレーニングを積む必要がある。日本では音楽家が優遇されているとは言えず、二刀流の旨味もあまりないものの、音楽を生み出す喜びは何ものにもかえがたい。
 22日はそんなお話をしようと思っています。

2022年10月22日開催 鳥取大学公開講座「音とことばのカタチ 弾いて書くことの惑い〜文士の家に生まれて」

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