「きらきら星」が12通りに展開する
タイトルはフランス語で「ヴ・ディレ=ジュ・ママン」。
直訳すると、「ママ、私はあなたに何を申しましょうか」。フランス語特有の理屈っぽい言いまわしだが、実際には「ねぇねぇ、お母さんたら」と注意をひくための呼びかけで、舌ったらずの子供が一生懸命しゃべっていると、とても可愛い。
主題は、当時パリで流行していたシャンソン。ちなみに現在の歌詞がついたのはモーツァルトの死後だという。ドドソソララソ…という単純なメロディにハーモニーのついた主題が、12通りに変奏される。
最初の2つの変奏は、テーマのまわりにたくさんの音符がついて渦をまくように。
ステキなのは第3変奏。テーマが三分割されて飾りがつき、とってもおしゃれ。同じ三連音符が、左手にまわると一転して勇壮な楽想になる。
私が大好きなのは、キラキラ星のテーマがとぎれとぎれに演奏されて、そこに左手の相の手がはいる第5変奏。子供の問いかけにお母さまが答えているようでほほえましい。
次の変奏には指を交替に動かすドリルがたくさん出てきて、子供のころ、「指がもつれていますよ」と先生に注意されたおぼえがある。
曲の全体は明るい長調なのだが、第7変奏は哀しい短調。お母さまに叱られた子供がしくしく泣きながら「ごめんなさい、許して」と訴えているよう。でも、つづく変奏ではすぐに機嫌がなおって、楽しげにぴょんぴょん跳ねる。
第10変奏は一転してオペラのアリアのよう。お母さまがプリマドンナになってやさしく歌ったり、高い声ですばらしいテクニックを披露したり。
こんなふうに、単純な主題でさまざまな気分を演出するモーツァルトの手腕に舌をまく。