秋に開かれる第17回ショパン・コンクールの予備予選の取材のため、ワルシャワに聴きに行ってきた。期間は4月13日から12日間。書類・DVD審査に合格した158名(欠席6名)がエチュード、ノクターン、マズルカのうち10分程度の曲を約30分にわたって演奏する。
会場はフィルハーモニーの室内楽ホールのほうで、スタインウェイとヤマハのピアノが用意されていた。
エチュードは作品10−2、25−6と25−11のどれかを必ず弾かなければならない。これに2つのグループに分かれた5〜6曲のエチュードから1曲ずつ選択して加える。
テクニックに自信がある人は、いきなり10−1と10−2からはじめる。しなやかさがウリの人は、「3度」こと作品25−6を選択する。こまわりがきかないピアニストは「木枯らし」こと作品25−11を選び、しばしば
オクターヴのエチュード作品25−10と並べて弾く。演奏者によっては音量が大きいので、ステージ近くに坐っている審査員は悲鳴をあげる。
「木枯らし」ではスタインウェイのピアノの弦が3回切れるアクシデントがあった。演奏が終わると張り替える。取り替えた弦はすぐにゆるむため、舞台裏にもう一台を用意しておき、同じ場所の弦をもってくるのだという。調律師さんはピアノ選定と調律で不眠不休の2週間だったときく。
ピアノの選定はコンテスタントにとっても大問題だ。選定時間は15分しかないので直感で決めるしかない。ヤマハのピアノはタッチの感触が軽め、スタインウェイは鍵盤の手触りがよかったという人もいた。最終的に通過者の半数近くがヤマハを選んだという。
問題は椅子で、スタインウェイには普通のスツールがついてくるが、ヤマハは油圧式の椅子である。坐ってからレバーを上げ下げして高さを調節する。コンテスタントの中には調節の仕方を知らない人もいたようだ。眼が不自由な中国のピアニスト、シン・ルオも椅子の下げ方がわからなかったようで、手さぐりで何度もなおそうとしていた。こんなとき、誰か助けてもよいのではないだろうか。幸い彼は通過したからよかったが。
最初から”マイ椅子”を持ってきた人もいる。ラトヴィアのオソキンズはとても低い椅子が必要なため、備えつけのものでは弾けないのだそうな。小野田有紗さんも赤い可愛い椅子に坐り、白いドレスに映えていたが、これは会場にもともとあったものだという。
ところで,プログラムに書かれた小野田さんのプロフィールを見たら、「2歳でピアノを始めた」とあってびっくりした。そんなに早く!アルゲリッチですら2歳半なのに。
もっとも、ショパン・コンクールの資料のプロフィールはあまりあてにならなくて、古海行子さんは1988年生まれとなっているが、実際には1998年の間違い。コンクールでは年齢を加味して審査することが多いので心配したのが、無事、予備予選を突破してくれた。
おそらく予備予選最大の驚きは、インドネシアから参加したロナルド・ノエルジャディだろう。なんと、12歳でピアノを始めたと書かれている。この人が好感度抜群だったのである。身体が大きく、指も太く、鍵盤に軽くのせただけで澄んだ美しい響きが出てくる。練習曲作品10−10などは、ハーモニーで紡ぐ詩だった。
この人も見事に予備選を突破したので、大本命のチョ・ソンジンらとともに秋のコンクールが本当に楽しみだ。
– Information –
レクチャー・コンサート「第17回ショパンコンサートへの期待」
ゲスト:高橋多佳子(ピアノ)
5/28(木)19:00カワイ表参道コンサ一トサロン「パウゼ」
問:日本ショパン協会03−3379−2803/カワイ音楽振興会03−3320−1671
レクチヤー「ショパン・コンクールの世界」
6/20(土)15:00NHK文化センター京都教室(075−254−8701)
6/28(日)13:00NHK文化センター町田教室(042−726−0112)