珍しいのがとりえ
いづみこ、という字あまりみたいな名前である。
みどりこ、さくらこは見かけるが、いづみこなんてきいたことない。
きっかけは、ちょっと変わっている。父方の祖父はフランス文学者で、青柳瑞穂という。はじめての孫に「いづみ」と命名した。祖父とすこぶる仲がよろしくなかった父は、そのまま使うのは癪に障る、と思ったらしい。役所には「いづみ」と届けたが、通称には「こ」をつけた。
変な名前なので、なかなかちゃんと書いていただけない。だいたい、「いずみこ」と書いてくださる。「ず」にテンテンだと、なんだかじとっと湿った感じがするので、クレームをつけることにしている。「いづみ子」
「泉子」もある。「伊豆巫女」は・・・なかったなー。
「いづみこ」で一度トクをしたことがある。まだピアニスト駆け出しのころ、さる大新聞の夕刊の一面のインタビュー欄にお声がかかった。なんだって、こんなウマノホネに・・・といぶかったら、「名前が面白かったので」と言われた。
あだなは、じょんこという。「いづみこ」が発音しにくいので、学校時代の友達は私のことをこう呼ぶ。いや、日本だけではなく、留学先のフランスでも「JONKO」と呼ばれて(というより、呼ばせて)いた。ピアノの先生は最初のころ、「JONKO」すらおぼえられず、「ジョン何とか」と呼んでいた。ときどき、ドイツ風に「ヨンコ」になったり。
この来歴がまた、ややこしい。生まれたときの私は、色が黒くて(今も黒いが)にゅるにゅるしていた。お風呂で洗うと、すべってとり落としそうになって大変だったとか。どじょうみたいだというので「どじょんこ」と呼ばれ、次第に「ど」がとれて「じょんこ」におさまった。
こんなあだな、どこにもないだろうといばっていたら、中学の同級生がメールをくれた。「朝の連ドラの馬の名前がジョンコだって、知ってる?」
あわててNHKテレビをつけたら、テーマソングで「ジョンコ! ジョンコ!」と連呼されていた。
あるとき、あだ名+姓を漢字化して象牙の印鑑をつくってもらった。「情無娘・阿呆山羊」。情無しムスメ、アホなヤギというわけで、私にぴったりである。