【連載】「音楽家の愉しみ 第11回 ボルボルの中東料理とベリーダンス」(音遊人2025年秋号)

 誕生日は虫歯予防デーの六月四日。おかげで虫歯は一本もないのだが、最近は歯周病が気になっている。
 毎年六月の第一週は家族や友人たちと会食するならわしとなっている。当日の四日(水)は、日本コロムビアのディレクターさんと自宅でお祝い。南仏のこってりした赤ワインを持ってきてくださった。
 五日(木)は中学時代の親友とルドン展へ。見終わったあと、銀座の会席料理の店「あさみ」で凝ったお弁当をいただく。
 六日(金)は、『東京人』八月号のインタビューでお世話になったライターの金丸裕子さんと高円寺のぺルシャ料理店「ボルボル」へ。
 ここはカナリヤを飼っていて、モニターで映し出される民俗音楽に合わせて良い声で啼く。
 金丸さんはアニスの蒸留酒ラク、私はイチジクの蒸留酒ブッハオアシスで乾杯。前菜はフムス(ひよこ豆のディップ)とナン、ボルボルサラダ、スープ。
 飲み物を赤ワインに変え、メインは大好きなフェセンジャン(鴨肉とクルミのザクロソース煮込み)とピラフ、そして、羊と牛のミンチの串焼き「アダナケバブ」。
 お腹がくちくなったあたりでベリーダンスのショーが始まる。エキゾティックな衣装に身を包んだ踊り子さんがあらわれ、歌とダルブッカやウードに合わせて身をくねらせる。面白いことに、ちょうど良いタイミングでカナリヤが合いの手を入れる。
 途中でテーブルに手を差しのべ、一緒に踊りましょうタイム。お客さんの中にはノリノリで参加する方もいらつしゃる。
 誕生日ウィークのラストは、家族と新宿のモンゴル料理店「モリンホール屋」へ行く。平日は娘夫婦の仕事があるため、宴会は七日(土)に。プレゼントは、黒猫のぬいぐるみと三毛猫の小皿、沖縄のカラフルなショットグラス。「モリンホール屋」の店名は馬頭琴から取られている。遊牧民のゲルを思わせる内装。モリンホール屋サワーで乾杯。ヨーグルトドリンクのように発酵風味があり、少し酸っぱい。おつまみは、羊入りのモリンホールサラダ、羊のひき肉を包んだボーズ、羊のタンの塩茄で。
 骨付き羊肉を岩塩で茄でた「チャナサンマハ」は、モンゴルの代表的な料理。手袋とナイフが付いていて、娘の旦那さんが綺麗に切り分けてくれた。ポン酢のようなタレにつけていただく。
 スープは「バンシタイツァイ」。羊のすじ肉で出汁を取り、モンゴルの鮫子を入れてミルクティーで煮込んだもの。さっぱりしていて美味しい。
 このあたりでワインに移行。チャチャルガンという果物から作ったワインは、綺麗なオレンジ色をしている。最初は少し甘く感じるが、あと口に苦みがあり、癖になる。
 羊のロース肉の塊を野菜、香辛料と蒸し焼きにした「ホルホ」は、調理に五十分ほどかかるので最後に出てくる。肉の旨みが染み込んだにんじんやじゃがいもの美味しかったこと。
 このように羊づくしなのだが、不思議なことに少しも臭くない。四人ともお腹がパンパンになり、この先少なくとも二週間は羊はいらないなあ……と言いつつ帰路についた。

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