【連載】モーツァルト「お母さまきいてちょうだい」(なごみ 2018年9月号)

「きらきら星」が12通りに展開する

タイトルはフランス語で「ヴ・ディレ=ジュ・ママン」。
直訳すると、「ママ、私はあなたに何を申しましょうか」。フランス語特有の理屈っぽい言いまわしだが、実際には「ねぇねぇ、お母さんたら」と注意をひくための呼びかけで、舌ったらずの子供が一生懸命しゃべっていると、とても可愛い。

主題は、当時パリで流行していたシャンソン。ちなみに現在の歌詞がついたのはモーツァルトの死後だという。ドドソソララソ…という単純なメロディにハーモニーのついた主題が、12通りに変奏される。

最初の2つの変奏は、テーマのまわりにたくさんの音符がついて渦をまくように。

ステキなのは第3変奏。テーマが三分割されて飾りがつき、とってもおしゃれ。同じ三連音符が、左手にまわると一転して勇壮な楽想になる。

私が大好きなのは、キラキラ星のテーマがとぎれとぎれに演奏されて、そこに左手の相の手がはいる第5変奏。子供の問いかけにお母さまが答えているようでほほえましい。

次の変奏には指を交替に動かすドリルがたくさん出てきて、子供のころ、「指がもつれていますよ」と先生に注意されたおぼえがある。

曲の全体は明るい長調なのだが、第7変奏は哀しい短調。お母さまに叱られた子供がしくしく泣きながら「ごめんなさい、許して」と訴えているよう。でも、つづく変奏ではすぐに機嫌がなおって、楽しげにぴょんぴょん跳ねる。

第10変奏は一転してオペラのアリアのよう。お母さまがプリマドンナになってやさしく歌ったり、高い声ですばらしいテクニックを披露したり。

こんなふうに、単純な主題でさまざまな気分を演出するモーツァルトの手腕に舌をまく。

2018年8月27日 の記事一覧>>

より

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