世代を超えて受け継がれるピアニズム
貴重な資料とお話で巡る 安川加壽子の演奏と思い出
4月25日と26日、東京・日仏会館で今 年2026年が没後30年となるピアニスト ・教脊者、安川加壽子(1922~1996)を記念して「安川加壽子没後30年記念―貴重な資料とお話で巡る安川加壽子の演奏と想い出」が開催された(主他:安川加壽子記念会、日仏音楽協会)。すでに安川加壽子記念会は安川を顕彰する催しを15回行っているが、第16回となる今回は催しに合わせて歴史的ピアニストの演奏録音の復刻を専門とするサクラフォン・ レーベルから3枚組CD『安川加橘子の芸術一初期録音集1942~1957年』がリリースされ、ひときわ意義深い。安川に、あるいは日本のビアノ演奏史や教宥史に関心を持つなら必聴必携のディスクだ。
ギャラリーでは安川加壽子記念資料室の資料提供のもと、年譜が記された大きなパネルに始まって、子供時代から晩年までを網羅する安川加壽子の写真、演奏会のポスターやプログラムやレコード・ CDほかの貴重な資料を展示、落ち着いた空間で安川の生涯と芸術性・人間性に思いを馳せることのできる優れたプレゼンテーションとなった。
4月26日午後にホールで行われた会は2部構成で、最初は青柳いづみこの解説で先に述べたCDに復刻された音源の紹介。ショパンやメンデルスゾーン、ドビュッシー、ラヴェルからミヨー、宅孝二に至る17曲の演奏が簡潔で要を得たコメントを挟んで次々に紹介され、若い安川ー録音当時は20歳から35歳-の水際立った演奏に感嘆するひとときとなった。後半は青柳の司会で、95歳の現在も演奏活動を続ける安川門下のスーパーエイジ・ピアニスト、井上二葉ー先ごろ毎日芸術賞を受賞ーと高野耀子による対談「安川加壽子の思い出」。二人は東京音楽学校(!)の同級生、真摯に冷静に師の指導を語る井上にと、身振り手振りを交えて師のたたずまいの魅力を伝える高野と、対照的な談話は場内の笑いを誘うものであったけれど、音楽家・指導者・人間としての安川の誠実さと器量の大きさが伝わる興味の尽きない対談となった。お二人にはますますのご活躍とご健勝を心からお祈り申し上げたい。
ホールは満席。安川のかつての門下生たちのなかには高弟の一人、舘野泉の姿もあり、中国語を話す聴き手も散見された。フランスやイギリスでも安川はラザール・レヴィの主要な門弟として録音が復刻され、その存在と業績はアジアでのピアノ演奏史・教育史の文脈でも特大の意義を有している。今後も世代を超えて安川加壽子の偉業が連綿と伝えられてゆくことを期待したい。
取材・文=髙久 暁

