女同士に本当の友情は育たないとよくいわれる。ジェラシーが激しいからだそうな。本当にそうかしら?
私には、親友と呼べる女性ピアニストがいる。縁あって同じ音高・音大にすすみ、デビューしてからも互いの活動を励ましあっている。おもしろいのは、どの局面でも好きになる男性が一致しなかったことで、これが長つづきの原因ではないかと思うことがある。
本書を読んだら、女の友情には男の趣味が重ならないことが大切、と書いてあて、思わずニヤリとした。
小学校三年生で同じクラスになって以来、「着慣れた木綿のワンピースのような関係」の瑠璃と羊子。モデルの瑠璃は正統派の面くい。父親が所有するマンションの管理人として優雅に暮らしている羊子は、「瑠璃からすれば競争率の低い、ややくずれ気味の、年の離れた男」にばかり惹かれる。
結婚願望が強い瑠璃は、せっせとお見合いパーティに通い、一流企業の会社員吉村仁と結婚する。いくら親友とはいえ、うらやましくないわけがない。もし羊子好みの男だったら「おだやかに談笑しつつも、胸の内をぬるりと蛇のように冷たい感情が這った」ことだろう。しかし、幸か不幸か仁の印象は「この男のどこがいいの?」だった。
著者の筆は瑠璃と羊子の胸の内に交互にはいりこみ、いともあっさり本音をばらしてしまう。ナレーションのような地の文が絶妙。
芸術家タイプに弱い羊子は、骨董店の主人で影のあるやもめ男沢崎に片想いしている。物語は、この沢崎と羊子、沢崎の店の常連の資産家未亡人紀和子、紀和子の義理の息子でヘアメイクアーティストの顕をめぐる人間もようがメインだ。
なさぬ仲の親子、沢崎の妻の謎の死、心中未遂など、けっこう深刻な事件も起きるのだが、決してどろどろしない。かといって薄っぺらではなく、登場人物たちはそれぞれ重い過去をかかえながら、だからこそ他人をきめ細かく思いやり、現在を精一杯おしゃれに生きているというふうなのだ。
心に残るシーン、会話はたくさんあるが、私が好きだったのは羊子と顕が出会うところ。紀和子の家に招かれ、途中で雨に降られてずぶ濡れになった羊子は、どうせなら軽く仮装してみない?という紀和子のすすめで、彼女のコレクションからスカーレット・オハラのようなドレスを着る。
コルセットをぎゅうぎゅう締められて気分が悪くなった羊子が衣裳部屋で青い顔をしていると、彼女のヘアを整えるために紀和子から派遣された顕がやってきて、コルセットを脱がせ、ついでにあんなこともこんなこともしてしまう。ありえない展開。でも、なぜかとても自然なのだ。
敏感な瑠璃は、すぐ二人の関係に気づく。そのとき彼女はどう思ったか。
「資産家の息子で、しかも五歳も年下で、しかも才能のあるいい男と、もし本当につき合っているとしたら、なんだかくやしい」いいなぁこの距離感。経験豊かな大人の女性にぜひ読んでほしい一冊だ。
桐生典子『天上の白い笑み』(光文社)