荻窪北口駅前通り商店街の鰻屋「川勢」が、駅前再開発のため移転するという。
「食ベログうなぎ百名店」にも選ばれた人気店で、十七時の開店前には長い行列ができ、一階のカウンターと二階のお座敷はあっという間にいっぱいになる。食材がなくなると閉店。
二〇二六年一月九日(金)は、常連さんに予約していただいたのでスムーズに入店できたが、ひっきりなしにお客さまが訪れ、諦めて帰っていく。
紫蘇キャベツがお通し。男性陣はビール。私はガラスのコップに注がれる日本酒。
まず「ひと揃い」を注文。品書きによれば、ばら焼き、きも焼き、ひれ焼き、串巻、八幡巻、れば焼き。
壁にはうなぎの部位の説明が貼られている。
ばら焼きは腹骨に付いた身を剥がしたもの、きも焼きは内臓のうちレバー以外のもの、ひれ焼きは臀びれと背びれでニラを巻いたもの、とのこと。
柔らかく煮たゴボウを巻いた八幡巻。細長い身を巻きつけて焼いた串巻。最後はれば焼きのはずだが、肝臓は一尾に一つしかないので売り切れてしまったらしく、短冊焼きが出てきた。
マスターは寡黙でいつも静かな佇まい。でもものすごいスピードで焼き、ビールを出し、酒を注ぎ、予約なしのお客さまに断りを言い、あるいは一時間待つようにと指示したり、予約の電話に出たり。
日本酒をおかわりしてひと揃いがなくなったあたりで、女将さんが「どんぶり?」と訊ねてくる。美味しいご飯にふっくらした蒲焼が二切れ乗った名物の鰻丼。
甘すぎないタレが良い。粉山椒をたっぷりとかけていただく。こんなに充実しているのにとてもリーズナブルなお値段。
「川勢」は一月いっばいで店を閉め、三月ごろ西荻窪に移転する。また行かなくては!
二月十一日は、結婚記念日。娘夫婦を誘って阿佐ヶ谷駅北口の「ふみ屋」へ。
駅を出て北口商店街を抜け、松山通りを少し行ったあたり。表の柱に大きな瀬戸物のうなぎが架けられている。
暖簾をくぐると、厨房前にカウンター席、奥には小上がり席が四つあり、若い世代で賑わっている。
「川勢」よりは少しメニューに選択肢があるので、まず骨せんべいを注文。
お酒は三重の「うっかり八兵衛」。ネーミングがおもしろい。
こちらの串物は「一通り」と呼ぶらしい。短冊、クリカラ、キモ、エリ、ヒレの五本。その他に「うなぎのつくね」なんてのもある。
締めのご飯ものがまたユニーク。うな重、うな飯の下に、「鰻のタレご飯(生卵付き)」と書かれている。つまり、うなぎはないがタレだけがご飯に乗っていて、卵を溶いていただくのだろうか。
昔、落語で、ケチな男が鰻屋の前で煙を吸い込んで、匂いをおかずにご飯を食べるという「しわい屋」という噺を聞いたことがあり、それを思い出してしまった。
鰻屋が「嗅ぎ代を寄こせ」と詰め寄ると、男は手持ちの銭をちゃりんと鳴らし、「匂い代だから勘定は音だけ」と煙に巻いたとか。
もちろん私たちは、ちゃんとうな飯を注文し、お勘定を払って帰宅した。
2026年6月22日 音楽家の愉しみの記事一覧>>
*音楽家の愉しみ より
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第14回杉並界隈の鰻屋さん」(音遊人2026年夏号)
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第12回 八鹿のお寿司屋さん」(音遊人2025年冬号)
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第11回 ボルボルの中東料理とベリーダンス」(音遊人2025年秋号)
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第10回 神鍋(かんなべ)の夜」(音遊人2025年夏号)
- 【連載】「音楽家の愉しみ 第9回 燕三条の夜」(音遊人2025年春号)
全記事一覧
カテゴリー
- 連載 (136)
- このごろ通信 (9)
- 音楽家の愉しみ (13)
- ドビュッシー 最後の1年 (1)
- ピアノで味わうクラシック (10)
- 私の東京物語 (10)
- 青柳いづみこの指先でおしゃべり ぶらあぼ (15)
- 3つのアラベスク—宮城道雄とドビュッシーをめぐる随筆 (3)
- PICK UP 芸術新潮 (12)
- フレンチ・ピアニズムの系譜 NHK文化センター会員誌 (4)
- 音楽という言葉 神戸新聞 (4)
- 随想 神戸新聞夕刊 (7)
- ふるさとで弾くピアノ 神戸新聞松方ホール WAVE (4)
- 酒・ひと話 読売新聞日曜版 (4)
- みずほ情報総研広報誌 NAVIS (4)
- 花々の想い…メルヘンと花 華道 (12)
- 作曲家をめぐる〈愛のかたち〉 (8)
- Monday Woman 読売新聞 (3)
- 本をめぐる随想 月刊 和楽 (8)
- よむサラダ 読売新聞 (5)
- ショパン・コンクール (16)
- ショパン国際ピリオド楽器コンクール (1)
- ドビュッシーとフランス音楽 (44)
- 安川加壽子関連 (4)
- ピアノ教育関連 (12)
- 青柳瑞穂と阿佐ヶ谷会 (5)
- 書評・論評・CD評 (47)
- インタビュー(聞き手) (5)
- その他 (74)
- 青柳いづみこへのインタビュー・記事・対談 (42)
