安川加寿子記念会第6回演奏会レポート(ショパン 2004年9月号)

さまざまな年代のピアニストが集って

二十歳の前田拓郎から、芸大名誉教授として幾多の俊英を育てた高良芳枝まで、半世紀以上の隔たりがあるさまざまな年代のピアニストが安川記念会第六回演奏会に集い、心踊る演奏をくりひろげた。

ソロを弾いた三人は、安川記念コンクールの優勝者たち。一九九七年に第一回を開催したこのコンクールは、フランス音楽、ショパン、モーツァルトなど安川のレパートリーを課題曲の中心に据えるとともに、テキストの読み、音色や美しい響きに焦点を当てた、これまでにない画期的な試みだったが、資金難のため昨年の第四回以降の開催については未定という。

その第四回優勝者の前田拓郎は、ショパンの『幻想曲』。深々とした響き、堅固な造型の中に豊かなテンペラメントをのぞかせた。ラヴェル『ソナチネ』を弾いた第三回の谿博子は、軽やかで流麗なスタイルが魅力のピアニスト。第二回の柴田彩子は、ラヴェル『鏡』から三曲。「悲しき鳥」の立体的な音響設計、シャープなピアニズムが印象に残った。

名ヴァイオリニスト、シモン・ゴールドベルクの未亡人山根美代子は、故田中希代子の弟田中千香士との共演でドビュッシー『ヴァイオリン・ソナタ』。自由にテンポを揺らす田中をよく支え、淋しげな音、夢みる音、官能的な音を駆使してドビュッシー晩年の奥深い世界を描き出す。

後半は、二台ピアノと連弾。中間世代に属する鶴園紫磯子はと小澤英世は、理知的な鶴園とエモーショナルな小澤のぶつかりあい。ドビュッシー『牧神の午後』についで演奏された『リンダラハ』では、ハバネラのリズムに乗って「明るく哀しい」音楽が展開される。二〇〇三年作の正門憲也『遊戯第十四番「鐘」』は、演奏者が「演奏者が鐘になって遊ぶ」という趣向の作品。スタンウェイとベーゼンドルファーの音色の違いが面白い効果を上げていた。

当夜の白眉は、高良芳枝と井上二葉のデュオ。井上は東京音楽学校時代、高良は研究科を出てN響のピアノ奏者をつとめていたころ。安川の最初期の門下生たちだ。シャブリエ『三つのロマンティックなワルツ』が始まったとたん、プリモを弾く高良の音の輝きに驚いた。重さがよく乗り、楽器がハモッている! セコンドの井上は、しっかりしたバス進行、洒脱なリズムで、リリカルな高良のピアノを支える。遅めのテンポが心地よい。

第二曲は、美しく上品なワルツ。まるで初めて舞踏会に出た少女のように、一瞬躊躇したり、トコトコ駆け出したり、瑞々しい音楽づくりを楽しんだ。第三曲でも、深みのあるセコンドときらめくプリモが互いに語り合うかのようなデュオの醍醐味を堪能する。

プーランク『エレジー』になると、二台のピアノはメーカーの違いも越えてきれいに溶け合う。安川も弾いたというゆかりの作品『シテール島への船出』は、もう、ごきげんな演奏。何ともしゃれた味わいの歌い方、絶妙のルバート。拍手は鳴りやまず、アンコールされた『シテール島』はさらに生き生きした演奏で、客席を幸せな気分に包んだ。

2004年9月17日 の記事一覧>>

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