【インタビュー】「青柳いづみこ教授は『二刀流の達人』」(大阪音楽大学広報 Vol.210)

ピアニストと文筆家の肩書きを持つ青柳いづみこ教授といえば「二刀流」を見事に使いこなす数少ない「達人」の一人。09年には著書「六本指のゴルトベルク」で4つ目の文学賞「第25回講談社エッセイ賞」を受賞するなど、偉才ぶりはとどまるところを知りません。青柳教授の足跡をたどりながら、「達人」の素顔に迫ってみました。

日本一忙しいピアニスト

ドビュッシーの研究家で知られる青柳教授の本業はピアニスト。本学教授として学生を指導する傍ら、リサイタル、レコーディング、講演、テレビ出演など、音楽家としての仕事だけを見てもスケジュールはぎっしり。09年からは青山学院大学の仏文科の講師も勤め、日本一忙しいピアニストといっていいでしょう。

青柳 「レコーディングは年1回のペース。それに、理事をつとめる日本ショパン協会やピアノ教育団体、全国の音大などでの講演、最近はBSや民放のテレビ出演依頼も増えました。結構忙しいですね」

著書22冊 4つ目の「勲章」

青柳教授のもう一つの「顔」といえば文筆家。90年に「ハカセ記念日のコンサート」で作家デビュー。これまでに吉田秀和賞など3つの文学賞をもらっていますが、09年7月には「六本指のゴルトベルク」で講談社エッセイ賞を受賞、文筆家としての「勲章」がまた一つ増えました。

青柳教授がこれまでに出した著書は単行本15冊、文庫本を入れると22冊になります。08年2月に出た「ボクたちクラシックつながり」は版を重ね2万部を超えるベストセラーに。

クラシックの裾野広げたい

青柳 「クラシックに余り関心のない人にとってピアニストといえば中村紘子さんとフジ子・へミングさん。専門家筋では有名な方でも全然知られていなかったりします。そんなことから、あの本ではたくさんのすばらしい演奏家をご紹介しています。専門的なことも一般の人にわかるように書きました。アカデミックな中に閉じこもっていては、音楽は発展しません」

09年にはレッスン譜入りの「指先から感じるドビュッシー」(春秋社)、今年1月には6人の有名ピアニストを取り上げた「ピアニストが見たピアニスト」(中公文庫)が相次いで出版されました。

青柳 「演奏と文筆の割合は社会的な需要に比例しています。出版不況といってもまだ本屋さんはたくさんありますが、レコード店は減り、どんどんクラシックの棚が消えています。印税だって、本は 10なのにCDは0.3。どうしても本にウエイトがかかることに」

超人的な日々が何日間も

青柳先生の仕事場は大正時代に建てられた邸宅にあります。執筆のための書斎は、かつて井伏鱒二や太宰治らの文豪が行き来した「文芸サロン」。

青柳 「書斎とピアノ室は廊下を挟んで13歩。演奏と執筆を同時進行しているときは、それこそ大変です。執筆に詰まると廊下を走ってピアノ室に向かい、練習に疲れると、また廊下を走って書斎に戻り、何時間もパソコンの前に釘付け。こんな綱渡りの日々が続きます。演奏会の翌日などはなかなか頭が切り替わらず、言葉が出てこなくて」

単行本の場合なら原稿は4百字詰め原稿用紙で5、600枚。ゲラが上がれば今後は校正。
青柳 「その校正がまた厄介。私は赤(直し)が多いので編集者泣かせ。『赤字大魔王』というありがたい名前を頂いています(笑)」。

磨きかかる演奏生活30年

今年は演奏生活30周年。青柳先生にとっては記念すべき年に当たります。東京はじめ各地でコンサートを開くほか、単行本3冊、文庫本3冊、CD1枚を出すことがすでに決まっており、「二刀流」の達人はますます健在です。

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