【連載】「よむサラダ 打ち上げの一杯(終)」(読売新聞 2001年7月29日)

コンサート後のお楽しみ
   新潟で地酒、南仏でワイン

秋のコンサートの打ち合わせをする。今年の私のテーマは「水の音楽」だ。水にちなんだプログラム、チラシのデザインと写真の選定、プロモーションのアイディア。
だいたいのことが決まるころ、だれかが言い出す。「で、打ち上げの場所は?」
スタッフの顔がゆるむ。そうだよねぇ、それが楽しみでみんなやってんだよなぁ。

コンサートが終わったあとというのは、意外にすることが多いものである。お客様へのごあいさつ、CDや本のサイン、楽屋の片づけ。 花束やプレゼントの処理も済ませて、スタッフや招待客の方々と 「カンパイ!」。こういうときは、生ビールに限る。中ジョッキ半分ぐらいをぐいと飲み干すと、拍手がわき起こり、ようやくひと仕事が完結した気分になる。

大阪でのレクチャー・コンサートのあとは、梅田近くのビア・ホールにくりだした。 アンバー・エールというイタリアのビールをピッチャーで頼み、メンバーがてんでに食べたいものを注文する。生ハムのピッツァ、キノコのクリーム煮パイかぶせ、南欧の野菜料理ラタトゥイユ、魚介類のサラダ。中華料理店のようにぐるぐる回るテーブルにのせると、ビールもお料理も面白いようになくなった。

新潟でトーク・コンサートに出演したときは、主催者のお宅に集まり、とびきり新鮮なおさしみや手作りのおつけものを肴に、地酒をしたたかに飲んだ。主催者の方は古陶磁を集めておられ、徳利から皿小鉢類まで、由緒あるものが次々と出てくる。なかでも私は、酒を注ぐと底に流れた青の釉薬が浮きあがって見える美しい盃に魅せられた。

ワインで忘れられないのは、留学時代、南フランスのアヴィニョンで弾いたときのことだ。古い教会でのリサイタルのあと、神父さんが、「これを飲むと、明日の朝はきっと頭が痛くなるヨ」とウインクしながら、シャトーヌフ・デュ・パフという赤ワインをすすめて下さった。「法王の新しい城」という意味で、かつてローマ法王の別邸が建てられていた地区に畑があるという。いかにも南国らしい芳醇な香り、深みのある味わいのワインで、庭でとれたハーブをのせて焼いた骨付きの子羊、真っ赤に熟したトマトにアンチョビやオリーブ、ツナを混ぜ入れたニース風サラダとの相性が最高だった。

打ち上げの一杯! がなかったら、とうにピアノ稼業から足を洗っていたにちがいない。

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