「バーン・ジョーンズ展 装飾と象徴」(東京新聞 2012年7月9日夕刊)

『運命の車輪』奇妙に実体のない肉体

十九世紀のイギリスで、ヴィクトリア朝絵画の頂点を極めた巨匠バーン・ジョーンズ(一八三三~九八)。作家の全容に迫る日本初の個展「バーン・ジョーンズ展ー装飾と象徴ー」(東京新聞など主催)が、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催されている。出品作品の中から五点を紹介する。

バーン・ジョーンズは私の好きな三大画家の一人だ。静謐な画面とひきしまった造形、 両性具有的な人物像。師匠のロセッティ同様、神話・伝説に多く取材しているが、はるかに細密なタッチに惹かれる。『運命の車輪』は、運命の女神とその車輪に翻弄される人間たちを描いた傑作。遠景が多いバーン・ジョーンズにしては珍しく、画面いっぱいに回転する車輪が置かれる。目は、車輪につれて縛られた奴隷、笏杖をもつ王、月桂冠をつけた詩人へとまわり、かすかに膝を曲げた女神の足元から衣装の襞に包まれた腿、帯で結ばれた腹部、乳房の隆起、青白いデコルテをたどり、 憂いの横顔へと至る。ミケランジェロの彫刻を手本にした肉体こそたくましいが奇妙に実体がなく、 その脆弱さが、運命の儚さを象徴して深く人の心をとらえる。

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