B5 ドビュッシー:「2つのアラベスク」より2.ト長調
《12の練習曲》を書いたとき、ショパンに捧げようかクープランに捧げようか迷ったドビュッシーのピアニズムには、大きくわけて2つの流れがあります。ショパンの技法と、クープランに代表される18世紀のクラヴサン(チェンバロ)音楽です。
《アラベスク第2番》は華やかな装飾的パッセージとはずむようなリズムが特徴的で、「指先の軽い動き」など伝統的なクラヴサン技法をとりいれています。
クラヴサンという楽器は、モダン・ピアノと違って重さがかけられないため、タッチのコントロールが最重要課題です。クラヴサンはまた、音が長くつづかないので、さまざまな装飾音を駆使して旋律をふちどり、手のすばやい交替やグリッサンドのようなパッセージで華麗さを演出しました。
クラヴサンはとても鍵盤が軽く、信じられないくらい速く打鍵できるので、その効果を今のピアノで再現するのは困難です。余分な圧力をかけないように注意しながら、音の粒をそろえて鮮やかに弾かなければなりません。
《アラベスク第2番》にも、クラヴサン曲を思わせるトリルのようなパッセージが出てきます。この部分を軽やかに弾くためには、根元の関節のバネが必要です。
スタッカートにもさまざまな種類があります。指先で軽くはじくもの、手首でやわらかく切るもの、腕の重さをかけるもの。
恩師安川加壽子先生は、手首やひじを縦に切るスタッカートを多用されていました。ポーンと跳ね上げるため、指だけで切るスタッカートよりも音楽に必要な「間」が生まれるとのことでした。5〜6はそれを応用して、ボールが階段からはずみながら落ちていくイメージで弾きましょう。
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《アラベスク第2番》にはまた、オーケストラ的な書法が多く使われています。
28〜31は華やかなトゥッティ。和音の形をしっかりつくり、握り取るような感じです。スタッカート部分も腕全体がバウンドするような重量感が求められます。32〜33ではトランペットなど金管楽器が炸裂しているイメージです。指を垂直に立ててスピードの速いタッチをすると鋭い音が出ます。34〜35は和音の移り変わりとともにどんどん軽くしていきます。36は指を手前にはじいてピツィカートのように。
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37〜41までと、46〜49では、同じメロディが高さを変えて出てきます。低いほうは、例えばファゴットのようなのんびりした楽器のイメージなので、ゆっくりしたタッチで素朴な音。高いほうはフルートをイメージして、輝きのある音を出すなど、それぞれの楽器に適したタッチで色分けを工夫しましょう。
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50〜52は弦楽部のイメージです。ヴァイオリンはのばした指に圧力をかけて練るように。ヴィオラはもう少し腕の重さを足して温かい音で、チェロは重さをかけてたっぷり響かせます。
90以降では、同じモティーフがいろいろな楽器に現れて、そのたびに音域が上がり、参加する楽器が増えていく感じがスリリングです。私のイメージでは、最初の段落がチェロ、92からヴィオラが加わり、
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94以降はヴァイオリン、そのあとクラリネットやフルートも加わり、次第に厚みと輝きを増していきます。最後はシンバルがじゃ一ん!と鳴って華やかなトゥッティに到達する、という感じです。試してみてください!