【書評】文化部編集委員、桑原聡が読む『ショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く』産経新聞 2016年11月21日朝刊

■臨場感あふれる観戦記

ショパン・コンクール。

開催は5年に1回。ピアニストとして世界に躍り出ようとする若者にとって憧れの舞台である。昨年の第17回は、1985~98年生まれの者が対象。書類・DVD審査を通過した者が、春のワルシャワで開かれた予備予選で、秋の本大会への出場枠(80弱)を争った。本大会では1次、2次、3次とふるいにかけられ、10人がグランド・ファイナルに駒を進めた。昨年は455人が応募、うち445人が審査対象となり、152人が予備予選に臨んだ。

本書は、予備予選と本大会に立ち会い、出場者をはじめ多くの関係者に取材した著者が、ショパン・コンクールの歴史を俯瞰(ふかん)しながらつづった臨場感あふれる観戦記である。と同時に、音楽コンクールのあり方や音楽界の将来に対する真摯(しんし)な問題提起の書でもある。

現役のピアニストにして天分ある文筆家としても知られる著者は、五感を駆使して若者たちの演奏を受け止め、ピアニストでなければ気付かないであろう、ささやかだがとても大切なことを、巧みな比喩と筆さばきで普通の音楽愛好家に伝える。たとえば《他のコンテスタントがルバート、つまり時間の変化で表現するところを、アムランは音色の変化で勝負する》といった記述を目にした読者は、名前すら聞いたことのない若者の演奏をきっと見聞したくなるだろう。

ショパン・コンクールは、ショパン演奏における「正統的な解釈の普及」を目的に27年に創設された。だが、何が「正統的」なのか。それは創設以来の議論の対象であり、結論は永遠に出ることはないだろう。「ロマティック派」と「楽譜に忠実派」との争いであった同コンクールの歴史をたどりながら、客観的な審査基準のない芸術の評価の困難さを浮き彫りにしたうえで、著者は出場者にこんなメッセージを発する。

《結果には一喜一憂しないでほしい。…自分に見合った活動の方法を選びとり、自分なりの聴衆を開拓するすべを知るのも、コンクールによってえられる成果のひとつだ》(中公新書・880円+税)

ショパンコンクール
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