【書評】「ヴィンテージ・ピアニストの魅力」2022年12月24日付 毎日新聞東京朝刊

ヴィンテージ・ピアニストとはあまり聞きなれない言葉だが、年齢のいった長寿のピアニストをいう。

以前はピアニストの寿命は短かったが、近年、七十代以上の演奏家は数多いのだという。彼らの演奏を紹介したユニークな書。その数、内外で四十人。こんなにいるとは。

八十六歳でベートーヴェンの「ソナタ第三一番」を暗譜で弾いたアルド・チッコリーニ。八十歳を過ぎてバッハの「パルティータ第二番」をやはり暗譜で弾き「少女のような純粋さと甘さ」を保った井上二葉。東京で九十歳の記念コンサートを開いたウィーン三羽烏(さんばがらす)の一人、イェルク・デムス。メナヘム・プレスラーはなんと九十歳でモーツァルトを弾いてベルリン・フィルと初共演したという。

年を取れば当然体力は落ちるし、暗譜も難しくなる。そんななかで若々しい演奏を続けるピアニストたちに著者は素直に賛辞を贈る。

著者自身ピアニストでありまた文筆家でもある。だから技術評もあるが、いいのは老ピアニストたちの演奏に感動して手放しに「度肝を抜かれた」「夢のように美しかった」と評すること。最後に紹介されるのは七十代とはいえまだ若い著者自身なのが愉快。(川本三郎・評論家)

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