【書評】「パリの音楽サロン: ベルエポックから狂乱の時代まで」(ムジカノーヴァ2023年11月号)

コンクールのない時代に、音楽家はいかに自分の才能を世に知らせたのか

19世紀の音楽を演奏、もしくは学ぶ中で必ず登場する「サロン」。「サロン風の音楽」「サロンで愛された演奏家」…など、当然のように使われている言葉だが、はたしてサロンの実態とは何だったのか。それを探求できる一冊である。

貴族や文化人、そして芸術家が集うサロンは、文化の最先端を行く場所であると同時に、あらゆる芸術家たちが芸術家として歩むために必ず通らなくてはならない場所だった。ショパンやフォーレ、ドビュッシーといった作曲家たちも若い頃、ここで多くの文化人たちに愛され、羽ばたいていった。

本書では、19世紀から20世紀初頭のパリの状況やサロンを主宰する人物たちの人間像や交友関係、そして乱立するサロンの中で繰り広げられた音楽会の様子などが詳細に語られている。さらに、そこで音楽家や文化人たちがどのようなふるまいをしていたのかといったことまで言及されており、当時の事情を鮮やかに知ることができるのが大きな特徴である。コンクールがない時代、自らの才能を世に知らしめるためにどのように生きていったのか。彼らの人間らしい姿に触れることは、作品や人物像に親近感を覚える機会を与えてくれた。音楽家たちの遺した言葉が多く引用されているのも特徴で、それがさらに本書の内容を鮮やかなものにしているのだ。

当時の音楽家や 芸術家、そして彼らをとりまく多くの人物たちとのかかわりから見える歴史を深く味わうことができるだけでなく、生み出された作品とその受容についての詳細は、愛好家をはじめ、研究者や演奏者にとって多くの示唆に富んでいる。フランス音楽に精通し、自身が演奏する立場にある著者だからこその視点で描かれたパリの百花繚乱の時代を、皆さんもぜひその目で確かめてほしい。

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