【書評】「ショパン・コンクール」音楽の友2016年12月号 評・真嶋雄大

細部にわたり活写されたショパン・コンクールの「現実」

1927年に創設され、現在最古の歴史を有するショパン国際ピアノ・コンクールは、輩出したピアニストが数多く世界で活躍することでも知られている。それだけにコンクール自体が世界最高峰の権威を有するようになった反面、かつて審査方法などの不透明さを取り沙汰されることもあった。

文筆家にして現役のピアニストである著者は、第16回のコンクール時に興味を覚え、2015年の第17回大会には自らポーランドに足を運び、その模様をつぶさに体験、検分すると、かねてよりの懐疑が消化されるどころか、ますます増大したのだという。それはまずポーランドでの本選に出場する以前の疑問から呈される。申し込み書類、DVD審査、それをクリアしてのポーランドにおける予備予選、それを詳細かつ丁寧な取材を基に、現状や問題点、疑念が提示されていく。それは主催者や審査委員、コンテスタントの各々に及び、通常知られることのない情報が露わになる。さらに実際にコンテスタントのパフォーマンスを聴いての所見、批評は幾多のピアノ・コンクールの審査員も務めた経験のある著者ならではの愛情と厳しい目によって精密に描き出され、それは微に入り細を穿つ。まさに著者独自の矜持が示される。

ショパンそのものに対する考察も目を引くが、何より「ロマンティック派 VS 楽譜に忠実派」など、ショパン演奏に対する方向性の変遷は極めて興味深く、さらに第一次予選、第二次・第三次予選、グランド・ファイナルと読み進むにつれて、ディテールは益々熱気を孕む。その視野はコンテスタントや審査員ばかりではなく、指導者、聴衆、楽器メーカー等々全方位に向けられ、あたかもライヴで立ち会っているかのようだ。織り込まれたエピソードはもちろん、コンクールや音楽界の未来まで俯瞰した関係者必読の好著である。

ショパンコンクール
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