ピアニスト憧れの場の内幕
5年に1度、ショパンの出身地ポーランドで開かれるショパン・コンクール。ピアニストの憧れである世界屈指のコンクールの昨年の大会の取材を軸に、激しい闘いの内幕と実情、さらにはクラシック音楽界全体の課題を描いた。「30人以上の関係者や参加者に話を聞いた」という労作だ。
執筆の契機は、2010年のコンクールの予備予選にあたるDVD審査で、ロシアのユリアンナ・アヴデーエワが落選したことに審査員の1人が抗議を申し入れ、それが認められてアヴデーエワが本大会で優勝したこと。予備予選は録音法や映像の見せ方で当落が決まるケースも多い。「DVDだけで実力が把握できるのか」と疑問を持った。
本大会にはその年の審査員の意向が反映される。特に、譜面に忠実な演奏が正しいか、自分の解釈でロマンチックに弾いた演奏がよいかはコンクールのたびに課題となる。そんな実情も、15年のワルシャワの会場でじっくり演奏を聴き、ときに参加者らに取材して本書に書き込んだ。結果は演奏家の人生を変える。「本来、コンクールは教育の場。参加者を犠牲にしてはいけない」と感じたという。
審査員と参加者との関係もあいまいだ。審査員は弟子が参加する場合「S」(Student)申告し、その審査から外れる決まりだが、10年大会までは自己申告制で明確な基準がなかった。「門下生の活躍は師の評価にも直結するだけに、水面下で駆け引きがある」
日本人は、昨年は小林愛実がファイナリストに残ったが、入賞は逃した。「今の日本の音楽教育は学生を型にはめようとする傾向がある。コンクールの結果も大事だが、重要なのは自分の個性や表現を磨くこと。音の点数化は難しい。コンクールのあり方を考えることで、若い演奏家の未来を考えてほしい」