ピアノコンクールの裏側
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)が直木賞候補になった。すでに六回目の候補だ。ほかに四人の候補がいるが、最年長の恩田は実績も抜群で、受賞の最有力と目される。
だが、そんな世間的胸算用をさておき、この小説の力強さは圧倒的だ。
内容は、ピアノコンクールの一部始終である。芳ヶ江と呼ばれているが、浜松国際ピアノコンクールをモデルにしていることは一目瞭然だ。その二週間の演奏と審査の模様だけでほぼ成立している。抽象的な音楽演奏の描写を主体にして、二段組み五百㌻超の小説をたゆみなく読ませる。そんな難業に成功している。物語が楽しいだけでなく、人間が音楽を得たことの恩寵(おんちょう)を説得力豊かに描きだしている。
コンクールには勝者と敗者がいる。しかし、演奏するのも人間、評価するのも人間で、そこにはつねに音楽以外の要素も入りこむ。その点で「蜜蜂と遠雷』、はいささかきれいごとにすぎるといえるかもしれない。
本欄で言及されたことのある青柳いづみこの『ショパン・コンクール』は、ピアノコンクールの舞台裏にひそむ人間的な複雑さを生々しく記している。『蜜蜂と遠雷』の副読本として推薦したい。
(ポゴレリチ)