今年は仏音楽家クロード・ドビュッシーの生誕150年にあたる。ドビュッシーの名演奏で知られるピアニストであり、その評伝も著した文筆家とあって、記念コンサートに講演、出版…と忙しい日々が続く。
本書はドビュッシーのピアノ作品計40曲に寄せたエッセー集。「多面的なドビュッシーの、ほんの一部しか広く享受されてこなかった日本で、理解が深まる一助になれば」と願いを込めた。軽やかで巧みな文章により、ドビュッシーの複雑な人格や交友関係、時代背景などがいきいきと浮かび上がってくる。彼の音楽の先進性や東洋文化との関わりについても、具体的エピソードとともにわかりやすく説明。「裏付けには最新の研究を生かしているので、読めばドビュッシーに関する最先端の知識が身に付きますよ」
ドビュッシーとの“深い関係”は、大学院の修士論文がきっかけ。それまではむしろ、「“おしゃれなフランス音楽”は自分の嗜好(しこう)とは真逆」と敬遠していたという。
「文献をあさるうち、祖父(仏文学者の青柳瑞穂)の本棚で幼い頃から慣れ親しんでいた、(作家の)ピエール・ルイスやアンドレ・ジッドらの名前を見つけてびっくり。『彼らの仲間内に、私の大好きなあのヤバイ世界に、ドビュッシーもいたのか!』と」
ドビュッシーの音楽は、同時代の文学と切り離せない。だからこそ、彼の創作をひもとく作業は、常に音楽と文学が身近にあった「自分の仕事だ」と直感したという。「ドビュッシーは、言葉と音の限界を突き詰めた人。言葉が超えられない壁-彼の表現を借りれば『言うに言われぬもの』を、音楽で表現した。モノ書きピアニストとして、そこに共感しますね」
本書刊行と同時に、「前奏曲集第2巻」をメーンに収録した最新盤『ドビュッシーの神秘』もリリース。秋の夜長に聴きながら読めば、ドビュッシーの世界にどっぷり浸れること間違いなし。