【CD評】「シューベルトの手紙」(レコード芸術2023年5月号)

那須田務
【推薦】青柳いづみこと高橋悠治のデュオは、アルバムのコンセプトと弾き手のパーソナリティが魅力だ。今回はわずか31歳10か月で逝去したシューベルトの「早すぎる晩年のピアノ・ソロ曲と連弾曲」。 ブックレットに2二のエッセイが寄せられているが、連弾以外のソロは全て青柳が弾いていて主体は青柳のようだ。昨年1月に青柳が御令姉の逝去を機に読んだシューベルトの手紙、とくに作曲家が亡くなる1か月前の書簡にインスピレーションを得たという。収録曲も即ち作曲家の最晩年の作品。使用ピアノはベヒシュタイン(1984年製)。1曲目は連弾の《ロンド》イ長調。 内的な躍動に乏しく一見平板に聴こえるが、一つ一つの音を慈しみ味わいながら弾いていて、ほのぼのとした風情とともに弾き手の体温が感じられる。《アレグレット》ハ長調や《即興曲集》D899は青柳の色とりどりの音色と情感がこのピアノ特有の響きの明度の高さと相俟って引き立つ。連弾の名曲《幻想曲》へ短調D940にも1曲目と同様のことが言えるが、音楽のスケールが大きくなるぶん、精神的な深みや表現も大きく劇的。トリルなどは滑らかではないし、最後のフーガもやたらと重たいが、音楽的には雄弁で力強く音色もカラフル。ラルゴや最後の「歌」はヒューマンな温かみがあって感動的ですらある。最後の《子供の行進曲》は巧まざるユーモアに満ちていて、お二人が肩を寄せ合って弾いているところを想像すると微笑ましい。

草野次郎
【推薦】円熟の2人のピアニスト、青柳いづみこと高橋悠治によるシューベルト晩年の連弾曲を中心としたCD。使用ピアノは1984年ベルリン製のベヒシュタインEN280。中高音の 極上の美しさに加えて全体的に気品ある響きで、シューベルトのピアノ曲には打って付けかもしれない。まず《ロンド》D951の連弾から始まる。屈託のない旋律だが語りかけるような表情は明るさの中にも達観した寂しさが垣間見える音楽で、特に第2主題などでそれが顕著に感じられるが、二人の演奏は淡々と弾き進む中にその美しさが滲み出ている。ここから青柳の独奏で《アレグレット》D915と《即興曲集》D899は共にハ短調から始まる。前者では過度な強調や恣意的な表現はなく、あたかもシューベルトの手紙の一節を読んでいるかのうようなインティメートな楽曲であり、その演奏である。後者の4曲は有名な曲だが、前曲から違和感なく繋がる。青柳は単音での旋律や転調における瞬間的なニュアンスの変化を的確に捉えて、さらに情感の高揚では鋭い語り口となる。《幻想曲》D940でふたたび連弾となる。ここでは冒頭の切ない旋律を二人はゆったりと演奏し、歌詞が付いても不思議ではないここでの物憂い旋律の表情を明らかにしている。その後様々に変化する楽想の表情や色合いもたっぷりと聴かせているし、激しさにも堂々と対応している。最後の《子供の行進曲》D928は最晩年のシューベルトの透明な心情が童心に戻った寛容な佳曲で心を打つ。
 

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