【CD評・特選盤】『物語』Histoires(レコード芸術 2021年4月号 評・濱田滋郎、那須田務)

濱田滋郎 推薦

至って、“趣味人向き”ながら、類のない魅力をおびた企画として、注目をうながさぬわけには行かないアルバム。イベールの《物語》はーこの中ではーひとまず知られているとして、フローラン・シュミットがアンデルセン童話にもとづいて書いた連弾曲《小さな眠りの精の1週間》、そしてミヨーの作曲にその夫人で女極、マドレーヌが朗読用のテキストを添えたという、フローベールの小説「ボヴァリー夫人」にかかわる17の小品集となると、かく言う私をも含め、読者の中に、果たしてご存知だった人はいるだろうか、というぐらいのものであろう。フローランシュミットの曲集は童話を踏まえているだけに児滋向きとも言える分かりやすさを持ついっぽう、音楽的に高度な手法も凝らされていて興味深い。ミヨーの曲は、もともと長編映画の音楽として書かれた中から、ピアノ曲集として自由に編み直されたもの。それへ、夫人が前記のとおりテキストを付けたのである。当アルバムでは、イベールが青柳の独奏、フローラン・シュミットは青柳・高橋の連弾、そしてミヨーでは高橋の独奏に青柳が朗読を添える。なお、テキストの邦訳は高橋悠治に夜。聴いて、音楽として最もおもしろいのはやはりイベールの奇想に富んで詩じょうも豊かな《物語》だが、他も、この貴重な”わけ知りコンビ”の成せる業ゆえ、吟味に値する。このコンビ、次は果たしてどのようなアイディアで夢を見せ、楽しませてくれるのだろう?

那須田務 推薦

すてきなアルバムである。青柳いづみこの新譜は高橋悠治との共演。「物語」と題して、イベールの表題曲、フローラン・シュミットのピアノ・デュオ《小さな眠りの精の1週間》、ミヨーの《ボヴァリー夫人のアルバム》という、物語ないし文学的内容を連想されるピアノ曲を集めている。まず青柳の弾くイベールの《物語》がすばらしい。〈金の亀を引く女〉はちょっとした音楽的な仕草や音色の変化が多様な表情を生み出し、〈小さな白いロバ〉は歯切れのよいアーディキュレーションと軽快なリズムが生き生きとした足取りを感じされて楽しい。ソノリテの制御力と弾き手のファンタジーとが相まってどの曲も新鮮に響く。この人は音楽を言葉のように捉えているのだろうか、どの曲も語りのように聴こえてくる。高橋悠治との連弾のシュミットの《小さな眠りの精の1週間》は淡々とした挽きぶりのうちに巧混ざるユーモアが滲み出てくるといった演奏。《ボヴァリー夫人のアルバム》はフローベールの小説を原作とする映画音楽。ミヨー夫人のマドレーヌが小説から自由にテキストを抜き出し、朗読用として楽譜に添えたものだという。その高橋悠治訳を青柳が朗読し、高橋がピアノを弾く。青柳の語りは彼女自身の演奏よりもほんの少しすました感じで高橋のピアノは客観的で静的。例えばヨーロッパ的な感情の起伏に富んだタロー&マドレーヌ・ミヨー盤にはない、フローベール文学の別の質的側面を表しているようで興味深い。

cd-histoires

*CDランダム5枚*

新メルド日記
CD紹介TOP

CD関連記事 ランダム5件

Pick Up!

CDのご注文

サイン入りCDをご希望の方

ご希望の方には、青柳いづみこサイン入りのCDをお送り致します。
ご注文フォームに必要事項をご記入の上お申し込みください。
お支払い方法:郵便振替

Top