【書評】「無邪気と悪魔は紙一重」サンデー毎日 2002年8月25日号 評・水口義朗

さて、本題 「女というもの」のすごさ

渡辺淳一さんは、ベストセラー『失楽園』と前後して、『男というもの』というエッセーを書いていた。男の心とからだの秘密について告白的本音を開陳した。これも三十数万部を売った。版元の編集者だったわたしは、すぐに、「女というもの」を注文したものである。〈それは書けない。男はパターン化できるが、女性はひとりひとり違うし、複雑。だからぼくは小説を書いている〉というのが答えだった。

ドビュッシー研究家であり傑出したピアニストである著者は、本書で、「女というもの」を“ファム・ファタル”(宿命の女)をキーワードに、東西の文学作品を自在に駆使して、解説してみせる。〈抵抗できない魅力を持ち、惹かれる者を破滅させるために運命から遣わされたような女〉が、辞書によるファム・ファタル。著者は、それに、“男を犠牲にする女”とともに“男の犠牲になる女”を加えている。

なぜなら、カルメンのように、男を破滅させつつ自分も破滅する“宿命の女”があまりにも多いからだという。〈カルメンの悲劇は、未来が見えすぎることだった。演奏家の私には、彼女の心情がうすうすわかるような気がする。音楽は、言葉が出なくなったところからはじまる、と言ったのはドビュッシーだが、文字通り言うに言われぬものをとらえて音にするのが演奏家の仕事で、そのぶん勘は鋭くなる〉

“鬼とアンドロメダ”(太宰治『カチカチ山』)、“オム・ファタル”(アベ・プレヴォ『マノン・レスコー』)、“貞操帯の女”(ピエール・ルイス『女と人形』)、“処女懐胎”(ムージル『トンカ』) 著者は、ミステリーにも造詣が深く、底知れぬ読書量の持ち主。男社会の歴史の中で、サロメ百態のごとく、エロスを武器に男と切り死にした女のスゴサを剔出する。

無邪気と悪魔は紙一重(単行本)
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