特集 再聴 グレン・グールド
ライブに聴く「本当のグールド」
イン・コンサート 1951~1960
ステージ演奏家時代の珍しいライヴ録音。ブラームスの《ピアノ協奏曲第1番》を仲間のピアニストに聴かせると、びっくりして、アラウとか、熱いピアニストみたいだね……という感想が返ってくる。1959年ウィニペグ、初めてこの協奏曲を弾いた時だ。練習を聴いたロバーツの感想どおり、「熱気に溢れ、きわめてドラマティック」。ときに突っ走っていて、そこがまた魅力。とにかく、バーンスタインとの解釈とはまるで違う。
57年6月ウィーンでの演奏とされる(確証はないが)ベートーヴェンのソナタ第30番は、以前はエア・チェックしたものが識者の間で出回っていて、あるグールド・マニアは、正規盤より好きだ、と打ち明けてくれた。 私も同感。60年8月、ストラトフォード音楽祭でのベートーヴェンの《チェロ・ソナタ》や《幽霊トリオ》は、本当にステキだ!グールドの古典的な機能和声感はすばらしい。旋律楽器とのやりとりでおおらかに歌いながら、締めるところは締める。 骨太で熱いベートーヴェン。肩をこわしてギブスをはめていたグールドが、ようやく復活し、再び演奏する喜びにめざめたころ。そして、「やらされる」ツアーではなく、自分が企画にも積極的に関与できる音楽祭での演奏。こういう録音を聴くと、グールトはつくづくピカソだと思う。古典的なデッサン力に秀で、その土台の上に前衛的な画風を展開したピカソと同じように、グールドもまた、優れた古典的「文法力」をベースに演奏のモダニズムに乗り出したのだ。彼のライヴ録音は、あらためてその類まれな「文法力」を思い知らせてくれる。