今週の本棚
標題はハシャギすぎ。ピアニストでありエッセイストである著者が、自分のそうした二面性のたがいに照らしあう姿を楽しく語ったエッセイ集である。ドビュッシーとラヴェルとのちがい、ポリーニとミケランジェリの比較といった話題をとりあげると、ふつうの音楽批評家とはちがう、演奏家ならではの証明がなされていて興味ぶかい。
著者の書いたドビュッシー論は、この作曲家の世紀末文学への傾倒を詳しく語るが、そういう著者にはドビュッシーは「音と言葉の表現領域の可能性とその限界について、とことん考えぬいた人」と見えてくる。ここに集められたエッセイ群が全体として示すのも、ピアノと文章という二面の活動の経験にもとづく「比較芸術論」だと言えそうだ。(水)