【書評】「水のまなざし」(文学界)毎日新聞 2003年1月28日 評・川村 湊(文芸評論家)

年上女性との恋愛――救いを求める青春の物語 

青柳いづみこの「水のまなざし」(文学界)は、声が出せなくなったピアニストの話。十歳ほどの年齢差のある両親(父親が年下)から生まれた真琴が、静養のために祖母のいる山陰の但馬に出かける。そこに父と友人の大田黒が訪れる。ピアニストにするために幼い頃から父親主導でピアノを練習した真琴。しかし、声が出なくなるのに伴い、ピアニストとしての「出世」も頭打ちとなる。娘と父親とのむつみあい、触れあいは、倒錯的でありながら、甘美な哀しみに彩られている。水死したショウという青年との性的ないたずらめいた関わりも甘やかに回想されている。小説が、そうした感情の発露を受け止める器となっている。それはたしかに「小説」の一つの重要な効能なのである。

同じような感触を車谷長吉の「古墳の話」(群像)にも感じた。古墳めぐりの好きな「私」が、古墳の中で出合った同じ高校の女子学生とデートの約束をする。しかし、彼女は約束の日が来る前に、強姦殺人事件の被害者となる。憤怒とも悲嘆ともいえぬ感情が、三十九年という時間を隔てて、いわば昇華されながら、いまだ生々しく作品中に漲っている。被害者の十七歳の少女を悼む「祝詞」の荘重で、時代離れした調べに、古代的ともいえる感情の表現を見るのである。これは、「水のまなざし」で使われている謡曲の調べと重なっているように思われる。

水のまなざし
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