【書評】「グレン・グールド 未来のピアニスト」音楽の友 2011年11月号 評・萩谷由喜子(音楽評論家)

「対位法人間」をつなぐ一本の線をあぶり出す

最初、本書の刊行を意外に思った。著者をことさらグールディストと認識していなかったし、評伝から演奏論、最新の女性関係解明書までこれほど夥しいグールド本が市場を賑わしているなか、新たなアプローチの余地があるのか、いぶかしんだからである。

どっこい、著者は、かの名ピアニスト大論客、こんな皮相的な先入観を本書の序章で木端微塵に打ち砕いた。ここで著者は「グールドがどうしてグールドになったか、あるいはグールドになることを選択せざるを得なかったところに、クラシック音楽とそれをとりまく環境に関する本質的な問題が潜んでいるような気がする」と鋭い一矢を放つ。さらに「私はグールド研究家ではない。(中略)私にとってグールドは、病理の具現化として興味をそそる」とみずからの立脚点をあきらかにし、続けて「彼自身が病んでいたという意味ではない。彼が病んでいるように見えたとしたら、それは、ほかならぬクラシック界の在りようが病んでいるのだ」と切り込んで、本書で何が解明されていくかを予告する。これだけでも胸躍るが、著者はさらに読者に餌を投げる。「どうして彼は、あんなに低い椅子で弾いたのか? どうして彼は、あんなに平たく指を伸ばして弾いたのか? にもかかわらず、どうして彼はレガートではなく、スタッカートで弾いたのか?……」ああ、もうだめ、早く答えを知りたい。読者はもう、著者の術中に落ちる。果たして胸のもやもやは晴れるのか?

著者は、膨大な文字資料、音資料、映像資料等の精査と分析、はてはグールドが愛食したビスケットの試食などを通じて、これらの謎の解明に挑んだ。その結果、「対位法人間」グールドをつなぐ一本の線が、あぶり出しのようにまざまざと浮かびあがる。

グレン・グールド 未来のピアニスト
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