【推薦】今年はドビュッシーの没後100年、ドビュッシー研究の第一人者でピアニストの青柳いづみこによる関連ディスクが2枚リリースされた。1枚は作曲家の時代のピアノによる録音だが、近年は同様の録音も増えた。たとえば、インマゼールのエラールによる《前奏曲集》や歌曲集、リュビモフがベヒシュタインとスタインウェイで録音した2つの《前奏曲集》他がある。青柳は奇しくもリュビモフと同じ1925年製のベヒシュタインで《前奏曲集》第1巻他を弾いている。ドビュッシーの《夢》とコダーイの《瞑想曲》を中心に、前半に《聖セバスティアンの殉教》(カプレによるピアノ独奏版)、後半に《前奏曲集》第1巻を配置するという凝りよう。20世紀初頭のピアノは現代のピアノと違って音域で音色が異なり、並行弦の楽器のような音の透明度があるのだが、とりわけ後者の点では同じ年度のベヒシュタインでもリュビモフ盤より優れている。また、リュビモフ盤にはスラヴ的な重さや湿り気があるのに対して、青柳のそれはより明るくてクリア。音色もカラフル。こうしたことは調整する人や弾き手の楽器や曲に対するイメージの違いに由来する。弾き手の楽器とのコンタクトが良好なのだろう。どの曲の演奏も生き生きとしていて繊細かつ大胆。《聖セバスティアン》の情感は迫真に満ち、《夢》は甘美で多彩な音色をまとって浮遊する。《前奏曲集》第1巻も響きの明快さと聞き手の想像力を刺激する詩的な趣が同居している。
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