【書評】「花を聴く 花を読む」(2022年4月3日付世界日報)

 ピアニストの著者には文筆家という もう一つの顔がある。 演奏家としてリサイタルを開催する一方、師安川加壽子の評伝『翼のはえた指』で吉田秀和賞を受賞するなど、名 エッセイストとして活躍してきた。
 その著者が池坊の雑誌『華道』から連載を依頼された。花にまつわる物語と、花の物語にちなんだ音楽を取り上げて執筆してほしい、と。 本書はその連載が基になって書き伸ばされ、出来上がった。薔薇、ミルテ、松雪草、白木蓮、睡蓮、と20のテーマで構成され、引用された文献は50冊以上。
 読んでいくと、 作者には独特の好みがあるようで、 怪奇小説やミステリーは大好きらしい。そして、花にまつわる詩や小説と音楽が、 著者の人生と絡み合って、 分かち難いものとして扱われる。
 桜の項目のところで、ロシア系アメリカ人作曲家レーラ・アウェルバッハという自分が登場する。彼の作った『サクラの夢』を 著者はよく弾くらしいが、詩人でもあり、来日した際にインタビューした。
 編集部から頼まれたという質問があり、「作曲と作詞、ピアノ演奏、多方面のことで大変ではありませんか」と訊く。相手は「すべて同じものからきています」と答え、「別々のことをやっている意識はありません」。著者は同感した。
 著者の父方の祖父は火宅の文学者、青柳瑞穂で、美食趣味と骨董収集による浪費癖に疲れた祖母は自ら死を選んだという。一方、 母方の祖母は純粋な女性で、ケーベル門下の青年らに求婚されながら身を守り、 兄の死後その遺言で結婚して母を産んだそうだ。それら相反する血が自分に流れていて、その成果、似たような性質を持つアンデルセンの『沼の王の娘』に親近感を覚えるという。
 取り上げた花には猛毒を持つものも同情し、その毒がドラマを演出する。夾竹桃、すずらん、彼岸花など。ちょっと怖い本だ。

(増子耕一)

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