【書評】「花を聴く 花を読む」(intoxicate)

 目で愛でるのはいい、だが口に入れてはいけない。花の美しさは毒でもある、体にとっても、心にとっても。
 美は危ういものだ。いや、危うさこそが美を孕むのか。花に伴う棘はためでわかろうが、毒性は体に入れなければ、それと知れない。
 青柳いづみこの『花を聴く 花を読む』と『花のアルバム』は文章と演奏、書籍とCDによる双子とみなされる。
二様の『水の音楽』から、もう20年。このたびは花をめぐる多彩なき響き合いで、ともに渡邊未帆の水彩画を纏う。
 このたびの本は楽に接しつつも、ぐっと文学のほうに寄っており、近刊ミステリーを含めて著の心は幅広い。の色とりにわれて、次々とシーンがカットアップされていくさまは、まさにに淫して幻をみるようでもある。実際、美しいのもつ毒性については、折に触れて説かれている。花には、もっとえば色には、毒がある。だからこそ、ひときわ美しいのだ。
 妖しい花が20篇の束に纏められている。薔薇、ミルテからはじまり、おしまいはダリア、百合、プルースト薔薇の。引用される作家も、アンデルセン、キーツ、ゲーテ、サン=テクジュペリ、宮沢治、夏目漱石、中島敦、曽野綾子から、よしもとばなな、仁成、東圭吾、彩坂美月まで40名をえる。それらをおいて、八村義夫に「彼岸幻想」のレッスンを受けたときの話や、そうでなくとも私的な回想を綴る分がとくに魅力的に映える。
 CD『のアルバム』には、12人の28曲が集められた。クープランの《ケシ》から、高橋悠治に書いてもらった《メッシーナのメボウキ》まで、ざっと300年ほどの歳月から多様な花々が摘まれている。シューマン夫妻、チャイコフスキー、シリル・スコット、アーン、シベリウス、タイユフェール、八村義夫、奥村一、伊左治直、アウエルバッハの小品に多様な個性が咲き誇る。
 花を摘むこと、手折ることから、二様の手帖は織りなされる。おなじひとりの手がたぐり寄せても、文章は私的に変奏できるが、演奏は作品に向かうなかに人柄が立ち顕れてしまう。そうしたの違いも味深い。
(青澤隆明)

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