【書評】「花を聴く 花を詠む」(西日本新聞 2021年12月26日)

カリスマ書店員の激オシ本
丸善博多店 徳永圭子さん

青柳いづみこ著『花を聴く 花を詠む』
切なく浮かぶ色、香り、毒

 ピアニストで文筆家の著者が花をモチーフに古今東西の文学や音楽にまつわる記憶を鮮やかに紡いだエッセイ集。薔薇(ばら)、ミルテ、けし、松雪草、青サフラン、夾竹桃(きょうちくとう)、すみれ、彼岸花、ダリアなど表情豊かに咲く花々の中に、「桜」があった。
 旧知の編集者が満開の桜を見て自らの生命力の衰えを呟(つぶや)くシーンに始まり、梶井基次郎、柴田よしき、太田紫織と桜をタイトルとした作品群が紹介される。坂口安吾『桜の樹の満開の下』の桜は人気(ひとけ)がなく、冷ややかではりつめた静寂が描かれていた。一拍おいて音楽の中の桜へ話は移り、日本古謡『さくらさくら』の変遷や、上野公園の桜に魅せられて2016年『サクラの夢』を作ったロシア系アメリカ人の作曲家アウェルバッハとの会話を綴(つづ)っている。作曲と詩作、ピアノ演奏と多方面の表現者同士、「ポエジーに音高とリズムがつけば音楽になり、言葉と韻律をともなえば詩になる」と共感しあう言葉まで美しかった。
 碩学(せきがく)の詩人グールモンと庄司薫の小説を並べ、多くの若者が出会う知の壁と人生の短さを問う「白木蓮(はくもくれん)」の章の中に「何となく、わかるような気がする」とふわりとした一言があった。こういう曖昧模糊(もこ)とした思いも織り込まれているエッセイが好きだ。桜を逃した春に、モクレンが咲いたのと誘われる浪人生の光景も、これからは季節が巡るたび、切なく浮かんでくるだろう。色、香り。毒も含めて花は芸術的な存在だと思う。
 (月曜社・1980円)

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