【書評】「ドビュッシーとの散歩」モーストリークラシック 2016年6月号

書評

ピアノ音楽好きなら著者の名前はよくご存じだろう。安川加壽子に師事し、フランス国立マルセイユ音楽院に留学。ドビュッシー弾きとして知られている。執筆もよくし、さまざまな著書で賞を受けている。もちろんドビュッシーに関する本もある。

本書はヤマハの会員情報誌の連載をまとめたもの。2012年に単行本として出版された。取り上げた作品はピアノ曲に限定されている。2012年はドビュッシー生誕150年の記念年であった。

解説で、小沼純一氏も書いているが、ショパンのエチュードやベートーヴェンのソナタなど作品番号だけの曲だったら、本書はつづれないだろう。「亜麻色の髪の乙女」「沈める寺」「ミンストレル」「アナカプリの丘」、こうしたタイトルが付いているからこそ、聴き手が想像を膨らませることができる。

「風変わりなラヴィーヌ将軍」は「前奏曲集第2巻」の第6曲。ドビュッシーは大衆演劇が好きで、マリニー劇場で「ラヴィーヌ将軍 生涯現役についていた人物」という喜劇手品師の伴奏音楽を依頼されたことがある。この曲はその伴奏音楽ではないが、「つんつるてんの軍服を着てぎくしゃく踊る」ラヴィーヌ将軍が描写されている。

大衆演劇好きといえば、「前奏曲集第1巻」第12曲の「ミンストレル」は、白人が顔を黒く塗って音楽や道化芝居を演じた「ミンストレルズ」のことなのだという。

ーつの曲についてわずか4ページほどの文章の中に、曲の来歴からドビュッシーの性格や交友関係、作曲当時の歴史的背景、ピアニストからの視点などさまざまな内容を練達の筆でさらっと読ませながら感動を誘う。14歳で早世したシュシュの話がよく登場する。娘思いだったドビュッシーのことを思うと胸が詰まる。

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