【書評】「アンリ・バルダ 神秘のピアニスト」週刊朝日 2013年11月29日号 評・西保博子

古き良き十九世紀の気配を奏法に感じさせるピアニスト、アンリ・パルダ。国際的には無名に近く、「知られざる幻の巨匠」とも「秘のピアニスト」とも呼ばれる。エジプト・カイロ生まれのフランス系ユダヤ人で、パリ音楽院の教授。七十歳を超えているが、気難しく、自分を売りこまない。

自身もピアニストの著者は、多彩な音楽表現を「別人かと思うように変化する」と驚く。その音楽のヒミツに接近するため、取材に非協力的なバルダを十年間追いかけ、評論風エッセイの形で人物像を浮かび上がらせた。

天才的な演奏の陰で、極端なプレッシャーに怯え、プライベートでは伏し目がちで愚痴ばかりこぼす、愛すべき面も描いている。レッスンも独特で、生徒が指だけでなく耳で響きを覚えていることを確認するため、パルダは弾いている曲を、別の調に移して弾くように生徒に命じる。カイロでエドワード・サイードと同じピアノの師についていたことから、サイードに招かれコロンビア大学のホールで演奏する話もあり、行間からピアノの音がこぼれてくる瞬間が愉しい。

アンリ・バルダ神秘のピアニスト
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